食べる物は家族バラバラ…子どもは肥満や摂食障害に 食卓から見えた「個の尊重」への警告
■みんなで同じものを
岩村さんは「共食の衰退は家族の健康問題にもつながっている」と指摘する。 先の5人家族は10年後の追跡調査にも応じた。17~20歳になった3兄弟にはそれぞれ、頻繁な無断外泊やひきこもり、肥満や摂食障害が見られた。母親は「手作りしたものを兄弟そろって食べさせていた」と事実とは異なる記憶を語り「子どもは今、自立する準備段階で難しい時期」などと答えたという。この事例に限らず10~20年後まで追跡できた89家庭のうち、自由任せの家では「明らかに健康問題が多く見られた」。 逆に、食に起因する病気がなく健康が保たれていた家の共通点も浮かび上がった。手作りかどうかやごちそうの有無などではなく「みんなで同じものを食べて、個々の自由はかなえられていなかった」ことだった。祖父が孫と同じシチューを食べ、子どもが父親の好みの煮魚も食べる。好みの異なる人との共食は「期せずして偏りのない食事になっていた」と解釈する。 ◆ ◆ 岩村さんは「オヤジが頭ごなしに無理強いするような昔が良かったという単純な話ではない。私たちは個の尊重という大事な価値観を狭く捉え、干渉することなく好き勝手を認め合うことと取り違えてきたのではないか」と語る。“今どきの主婦は”などと人ごとのように批判するのではなく、男女を問わず、わが身に照らした内省が不可欠だと自覚しているという。 戦後の新教育で「個の尊重」に初めて触れた人々も今や90歳近い。岩村さんの調査対象は、その世代に育児書などで育てられた1960年以降生まれの人が、親となって形成する家族。今、子育て中の家族の大半を占める。講演の指摘は、単に食のあり方にとどまらない、日本人の家族と暮らしへの警告に思えた。