ノーベル賞大隅氏「受賞につながると思ったことない」基礎研究の重要性強調
2016年のノーベル賞「生理学・医学賞」の受賞が決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授(71)は3日夜、記者会見で「研究者としてこの上もなく名誉なこと。ノーベル賞には格別の重さを感じている」と受賞の心境を語った。大隅氏は細胞内で行なわれるたんぱく質のリサイクル「オートファジー」の分子メカニズムを解明。自身の研究の始まりについて、「ノーベル賞につながる研究と思ったことはない」と振り返り、基礎的な研究の重要性を強調した。 【中継録画】ノーベル「生理学・医学賞」受賞の東工大・大隅良典氏が会見
「人がやらないことを研究」が原点
「戦後の非常に大変な時代からつねに暖かく見守ってくれた今は亡き両親に今日のことをまずは報告したい。また私の家族、折にふれて支えてくれた妻に感謝したい」と、会見の場で両親や家族に感謝の意を表した大隅栄誉教授。 酵母細胞でタンパク質をリサイクルする機能であるオートファジーを発見したのは1988年。「酵母が実際に飢餓に陥ると、オートファジーは自身のタンパク質の分解をはじめる。その現象を光学顕微鏡でとらえたことが出発点」と振り返った。 酵母の研究をはじめたのは、「人がやらないことをやろう」という思いから。「あまり競争が好きではないし、誰も取り組んでいないことをやる方がとても楽しいということが、実はサイエンスの本質ではないか。誰も取り組んでいない分野での発見の喜びが、研究者を支えるのではないかと常々思っている」。 以降、今日までの28年間オートファジーの研究に携わり、この栄誉の日を迎えた。科学者にあこがれた少年時代にはノーベル賞を夢みた記憶があるものの、「実際に研究をスタートしてからは、これがノーベル賞につながる研究だと思ったことはほとんどなく、励みになったこともない」という。 会見では、「オートファジーは、必ずがんにつながるとか、人間の寿命の問題につながると確信してこの研究をはじめたわけではない。基礎的な研究というものはそのように展開するものだということを理解してほしい」として、基礎科学の重要性を再三強調。 さらに、「“役に立つ”という言葉が、とても社会をダメにしていると思う。本当に役にたつのは、10年後か20年後か、あるいは100年後かもしれない。社会が将来を見据えて科学を一つの文化として認めてくれるようにならないかと強く願っている」と、科学に早急な成果を求めがちな風潮を批判した。 (取材・文:具志堅浩二) ■会見全編動画