「最強生物クマムシ」は月面で異常繁殖して怪獣化する?
クマムシはなぜ生きている可能性がある?
月面で生活できる生物がいないのであれば、なぜそこに落ちたクマムシは生きているかもしれない、といわれているのでしょうか? 冒頭でお話したように、探査機によって運ばれたクマムシは「乾眠」と呼ばれる、水分を失い、細胞内の活動が完全に停止した状態になっていました。乾燥しただけではただのミイラ(死骸)ですが、乾眠状態のクマムシは適切な条件で水を加えると、再び何事もなかったかのように活動を再開します。 先ほどお話したように、月面環境は生命が「活動」するにはあまりにも過酷な環境ですが、「活動」せずに「乾眠状態を維持する」ことまでは妨げません。後年に、月面に落ちた乾眠状態のクマムシを回収し、地球に持ち帰って水を与えれば、再び息を吹き返すかもしれません。月に水があるかどうかの研究は現在も進められていますが、仮に豊富な水があっても、岩石と化学的に結合した状態であったり、氷として存在したりするため、クマムシも月面でアクティブに活動することはあり得ないでしょう。
異常繁殖やゴジラのような巨大化はあり得る?
月面に落ちたクマムシが異常繁殖したり、巨大化して地球を襲ったりするのではないかいう噂が、ネット上の一部で流れていますが、これまで説明してきた理由により、そのような可能性はゼロといって良いと思います。月面のクマムシにとって最も致命的なのは、生命活動には液体の水が不可欠であるにもかかわらず、月面の大気圧がほぼゼロであることから水が液体として存在できない(氷か水蒸気であれば存在できる)ことです。逆に、液体の水さえ存在すれば、地球においても、地中や海底の超高温・超高圧のような悪環境下で大量の生物(微生物ですが)が暮らすことができます。 怪獣映画の中であれば、こういうことをいうと「科学者の浅はかな知識では到底理解できないのじゃ」という流れになり、揚げ句怪獣に踏み潰される運命にあるのですが、残念ながら(?)ここは現実世界なので、そのようなことは起こりません。「クマムシ怪獣クマラ襲来」は、現実にはならないと断言してよいでしょう。