読めば草花を見る目が変わる!植物が持つ脅威の能力。
⚫︎オジギソウが葉を閉じる仕組みを初めて解明。
⚫︎ハサミで切られた瞬間、全身に信号を送っている!
豊田 切られた瞬間、カルシウムのイオンが信号となって「切られた」という情報を全身に伝えている。これを特殊な装置を使って世界で初めて可視化したんです。このカルシウムイオンは、我々動物も含め地球上のほとんどの生物が使っている信号です。 古谷 「敵が来たぞ」という情報を伝えているということなんですか? 豊田 植物って身動きが取れないですよね。人間の場合、蚊が飛んできたら追い払ったりできますが、植物は昆虫がきたらそのまま食べられてしまう。その食べられる量をなるべく減らすためにどうするか。食べられたという情報をまだ食べられてない葉っぱに即座に伝えれば、虫が嫌がるような防御物、たとえば消化不良を起こすような物質が作られるんです。そうやって自ら防御力を上げているんですよ。 古谷 「この物質を出すと虫が消化不良を起こす」という結論には、植物自身はどうやって辿り着いているんでしょう? 植物が人間でいう思考や判断のようなものをしているのか、あるいはそうした物質が多い植物が生き残ったということなんでしょうか。 豊田 「進化論における自然淘汰」ということになるでしょうね。つまり、たまたまそうした物質や遺伝子を持っていたものが生き残ってきた。それが科学の世界での基本的な考え方です。
脳や神経を持たないのに似たような仕組みを備えている。
古谷 先ほど話した本でもうひとつ印象的だった記述があります。オジギソウは振動や刺激が加わると葉を閉じますよね。あるオジギソウの横を馬車が通るようになった時、最初は振動を感じて葉を閉じていたのが、そのうち馬車が何度も通るようになると、「この振動は危害にはならない」と判断したのか、葉を閉じなくなったそうなんです。その学習能力というか、判断力みたいなものがすごいと思って。 豊田 オジギソウがなぜ、どんな仕組みで葉を閉じるのかについては何百年も昔から解明が試みられてきたようです。我々もオジギソウの研究をしているんですよ。風を当てると最初は葉を閉じていたのが、一定の周期で当て続けていると閉じなくなる。害がないと判断しているのかはわかりませんが、だんだん慣れてくるんですよね。 古谷 環境に順応するということでしょうか。つい人間のように思考するのかと考えてしまいますが……。 豊田 「思考」は脳の働きですが、植物はどんなに解剖しても脳や神経は出てきません。でも、それに類するような能力を持っていることは確か。ちなみにオジギソウの葉の先端を触ると信号が流れ、それが引き金となって葉が閉じていく様子も我々の研究グループが初めて可視化に成功しました(上写真)。そうやって科学の力で植物の能力を客観的に解明しようとしています。 古谷 ほかにはどんな研究をされているんですか? 豊田 ハエトリソウという食虫植物をご存じですか? 虫が葉の内側にある感覚毛に触れると、葉を閉じて虫を捕食します(上写真)。1回触れただけだと葉は閉じず、2回触れた時に初めて閉じるんです。ただし葉を閉じるかどうかを決めるのは1回目と2回目の間隔の長さ。間隔が空きすぎると2回目でも閉じない。間隔が伸びれば伸びるほど、たくさん触らなければ閉じない仕組みを持っているんです。 古谷 まるで最後にいつ触れられたかを植物が記憶しているみたいですね。 豊田 我々だと目で見て脳で記憶しますが、神経や脳がないのに触れられた情報を保存してるんです。それを可能にしているのが、やはりカルシウムイオンなんですよ。虫が感覚毛に触れることでカルシウムの濃度が上がり、それが保たれている間に次の刺激が加わるとさらに濃度が上がる。そうして一定の濃度を超えると、葉が閉じる仕組みがあることがわかったんです。 古谷 よくできたシステムですね。一体、何のために? 豊田 植物にとって、葉を動かすのはとてもエネルギーのいること。だから、確実に獲物がいることが保証されなければ葉を閉じたくない。要は空振りしたくないんですよね。