読めば草花を見る目が変わる!植物が持つ脅威の能力。
植物はにおいを使って情報をやりとりしている?
古谷 私は普段、全国で提携している山に入って食などに活用できそうな植物を発掘しています。それによって日本の林業や山を守りたいと考えているんです。最近ではもともとあるものを採取するだけでなく、ニーズの高い木などの栽培も林業従事者の方たちと進めていこうとしていて。その際、何を一緒に植えたらお互いにとって、もしくは土地全体にとっていいのか、植物の共生学に興味が湧いているところです。 豊田 僕の研究室では植物間コミュニケーションの研究もしています。植物がにおいを使ってやりとりをしているということは昔からよく言われてきましたが、実際に見た人はいなかった。我々はその可視化に取り組んだんです。 古谷 においですか。どんなにおいでやりとりしているんでしょう。 豊田 芝生を刈った時の青臭いにおい、いわゆる「緑の香り」が、植物が傷つけられた時の危険信号として働いていることが我々の研究によってわかりました。葉をかじられた植物からあのにおいが出ると、周りにいる植物が、たとえ別の種類であっても、それに反応して防御物質を作り始めるんです。 古谷 私は日頃から森に入って葉をちぎって香りをかいだりしていますが、植物にしてみればこれまでに受けたことのない刺激を受けているわけですよね。森の中で植物同士がやりとりしていて、そのうち指名手配されるのではないか、そしていつの間にか新しい防御物質が作られて攻撃されてしまうかも、と妄想してしまいます。
豊田 ないとは言い切れませんね(笑)。今までにない刺激を受けると、においなどで情報を伝えあったりして、森全体で危険に備えているかもしれません。実際に生態系の中で、ある木が虫などに食べられていると、周りの木は意外と食べられていないんですよ。 古谷 これだけさまざまな能力を持っていていろんなことを乗り越えている一方で、植物の被害もよく見られますよね。松枯れ(マツ材線虫病)も全国で起こっていますし。対応するスピードが遅いからなんでしょうか。 豊田 時間的なデメリットは確かにあります。たとえば昆虫はあっという間に葉を食べますが、それに反応して信号が送られるのは1秒間に約1mm。植物全体に情報が行き渡るのに2分かかる。一方で、たとえば枝を切って土に挿しておくと根が生えてくるように、再生能力や自由に変化する力は、圧倒的に植物が高いですね。