日本シリーズの全試合DH制採用はセ導入への布石か?
セのDH制度の導入に関しては原監督が何度か持論を展開してきた。選手の出場機会を増やすことが、野球界の底辺拡大につながるとの意見である。日本シリーズで4連敗し、交流戦でも、セ・リーグがパ・リーグの後塵を拝している理由も、DH制度の有無があるとも主張した。確かにDH制採用で、打者の出場機会が増えて底上げがされ、対する投手陣も「投手でワンアウト」がないためレベルアップを余儀なくされ、総じてパ全体の野球のレベルが上がるというプラスの連鎖が起きているのかもしれない。 またDH制を導入すれば得点が増え、野球そのものがファンが喜ぶダイナミックなものにもなる。 巨人だけでなく、阪神もDH制導入には賛成の立場で「ファンファーストで考えプロ野球においてエンターテインメント性をより追求するにはDH制導入が好ましい。観客を増やしプロ野球の発展につながる」との見解も聞かれた。 だが、一方で広島、中日からは慎重な意見がある。 DH制の導入により、戦力格差が広がり、「資本があり選手層の厚いチームが有利になる」との構図が生まれることを不安視した。つまり選手を金でかき集めることのできる巨人がより有利になることを危惧したのだ。 またセ、パの監督を経験した故・野村克也氏も指摘していたが、投手交代や選手交代といったベンチワークの妙が消え、野球の奥深さがなくなってしまうことを心配する声もある。 実際、新型コロナの影響でシーズンを60試合に短縮したメジャーリーグではナ・リーグが初めてDH制度をレギュラーシーズンに導入したがバントが激減した。また、セでは「投手の打席に代打」というケースが多いため、DH制の導入で、かえって選手の出場機会が減るのではないか、との議論もある。 野球の原点は9人。セが導入してこなかった理由のひとつに「全員が投げて打って走って守る」という原則から逸脱するのではないか、伝統を守るべきではないか、との考えも根底にある。子供たちが、投手が打席に立たないことが主流になれば「4番でエース」も育たないのではないかという懸念もある。 メジャーでは、このままア、ナ・リーグ共にDH制度導入へと移行する可能性が高いとされるが、ナ・リーグのオーナーやファンの中からは「打って走って投げて9人でやるのが野球の原点」「ナ・リーグの伝統を守ろう」と主張する声が根強くあるのも事実だ。 DH制度導入にあるメリットとデメリット。 日本シリーズの全試合DH制採用が、シリーズの結果と内容にどんな影響を及ぼし、そして、セのDH制導入の議論はどう展開していくのだろうか。