利用者の体に合わない車いすや歩行器が多い日本 なぜスウェーデンのように快適な福祉用具を提供できない?
日本とスウェーデンの違いは金銭的理由
日本では、なぜオーストラリアやスウェーデンのように、高齢者に合った快適な車いすや歩行器が使われないのでしょうか。また、なぜ介護者はリフトを使わないのでしょうか。 それは、金銭的理由から来ていると思います。一部の介護施設を除き、介護施設と病院は、自前で車いすや歩行器、リフトを購入しなくてはならないからです。一人ひとりに合った、性能の良いものをそろえればお金がかかります。そのため、安価で標準サイズのものをそろえます。病院も介護施設も経営は苦しいので、当然そうなります。 一方、自宅や一部の介護施設(サービス付き高齢者住宅・有料老人ホームなど)では、利用者は介護保険を使い、自分に合う車いすや歩行器を借りることができます(貸借費用の一部負担)。しかし、それはあくまでも、要介護度で決まるサービス量の範囲内のものです。そのため、外国で使われている高価なものは借りられません。 金銭的理由以外にリフトが使われない理由は、介護者は時間に追われて仕事をしているので、時間のかかるリフトの使用を好まないこと、ベッド周囲が狭いこと、高齢者が「恐ろしい」と言って使用をいやがること、などがあります。
医療より生活支援にお金を使うスウェーデン
一方、スウェーデンでは、医療よりも介護を優先します。そのため、県は医療にはお金を使わず、車いす・歩行器・リフト等の生活支援にお金を使います。 高齢者には医療と介護の両方が必要ですが、わが国は介護より医療を優先するので、高齢者の生活の質は高いとは言えません。医療に莫大(ばくだい)な費用がかかるので、介護に十分なお金をかけられません。しかし、高齢化が進んでいるわが国では、高齢者の生活の質をもっと重視すべきで、そのためには、高齢者にはどこまで医療が必要なのかを考える必要があります。高齢者の医療と介護のバランスについて考える時ではないでしょうか。(宮本礼子 内科医)
宮本礼子(みやもと・れいこ)
(公財)日本尊厳死協会理事・北海道支部長。前江別すずらん病院・認知症疾患医療センター長。1979年、旭川医科大学卒。内科医。専門は認知症医療と高齢者終末期医療。2012年に「高齢者の終末期医療を考える会」を設立し、代表となる。著書「欧米に寝たきり老人はいない(夫、顕二と共著)」(中央公論新社)、「認知症を堂々と生きる(共著)」(同)。
長谷川佑子(はせがわ・ゆうこ)
スウェーデン在住。スウェーデン国シルヴィア王妃認定の認知症専門看護師。ウプサラ市・認知症ケアホーム認知症専門看護師。ウプサラ大学アカデミスカ病院老年急性期内科看護師。兵庫県立看護大学卒。 ママ&キッズのための情報サイト「グローリア」でスウェーデンの子育てについて連載。 https://www.glolea.com/ambassador/eri-swe スウェーデンの仕事や日常生活など「note」で紹介。 https://note.com/silviassk/