利用者の体に合わない車いすや歩行器が多い日本 なぜスウェーデンのように快適な福祉用具を提供できない?
細やかな選定と調整
スウェーデンでは、個人の身体機能・体重・認知機能に合う車いすを使います。その選定の細やかさは、まるでスポーツ選手に競技用自転車を合わせるかのようです。理学・作業療法士は、病院や高齢者施設で、高齢者の機能回復や維持につながる車いすを選んで調整します(写真5)。さらに、本人やケアワーカーに使い方を教え、そのすべてにおいて責任を持ちます。 車いすには大きく分けて二つのタイプがあり、一つは自力で座ることができるもので、手や足で自走できる人には、車いすの高さや大きさ、肘あての種類を本人に合わせます。皮膚の状態や体重の増減に応じて、クッションの質や座面の大きさを調整します。
もう一つは自力で座れないために、半座位になるリクライニング機能が付いているものです(写真6)。高齢者は身体機能や認知機能が低下していくため、このように適切な車いすを必要とします。
歩行器もまた、使用する人の環境や生活に合わせます。室内ではタイヤが小さめで軽量のもの、屋外では雪も考えてタイヤは太く大きめなもの、長い距離を歩けない人には座面を付け、 買い物をする人にはカゴをつけます。グリップの高さやブレーキも、本人に合う安全なものを選びます。肘の高さを電動で調整して起立を助けるリハビリ用のものもあります(写真7)。 ケアワーカーは、座ることや歩行が困難な人には、車いすとベッドの間の移乗にリフトを使います。毎日リフトが必要な人の場合は個室の天井にリフトを装着し、転倒した人を車いすやベッドへ移乗する時は移動式のリフトを使います。
使用法は理学・作業療法士が書面でケアワーカーに指示
理学・作業療法士は、車いす・歩行器・リフトの使用方法を書面でケアワーカーに指示し、その方法でしか使用は許可されません。例えば「2人のケアワーカーでリフトを使用する」という指示があるのに、ケアワーカーがリフトを使用しなかったり、 1人でリフトを使用したりしてケガをした場合は、労災保険はおりません。そのため、ケアワーカーはたとえ時間がかかっても、指示通りにリフトを使用します。 正しい方法で移乗をしていれば、ケアワーカーは腰痛症になりません。もし腰痛がある場合は、指示通りにリフトを使用しているかどうか監査を受けます。ケアワーカーに腰痛があれば高齢者にとって移乗は危険ですし、本人にとっても良い労働環境ではないからです。そのため、適切な補助器具と適切な人数で高齢者をケアするように看護師が教えます。 理学・作業療法士もまた、「ケアワーカーは高齢者の状況を把握して、適切に補助器具を使用しているか」と看護師によく聞きます。このように、スウェーデンでは多職種が協力して高齢者に補助器具を提供しています。(長谷川佑子 認知症専門看護師)