間もなく到来予定の「アトラス彗星」、太陽接近時に崩壊か 観測衛星が瞬間とらえる
「頭部を失った彗星」を見たことはあるだろうか。金星よりも明るくなると一時は予測され、「ハロウィーン彗星」の愛称で期待を集めていた「C/2024 S1(ATLAS)」(アトラス彗星)は、太陽への最接近に耐えられず、どうやら崩壊してしまったようだ。それを示唆する画像が、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同運用する太陽観測衛星「SOHO(SOlar and Heliospheric Observatory)」から届いた。 【画像】太陽観測衛星の広角分光コロナグラフがとらえたほぼ消滅したように見えるアトラス彗星 彗星が崩壊したとみられる様子は、地球を周回するSOHOに搭載された広角分光コロナグラフ(LASCO/C2)という装置にとらえられていた。この装置は太陽の光球を遮蔽する円盤を備えており、太陽に接近する天体を撮影できる。 ■9月末に発見された「ハロウィーン彗星」 彗星は通常、太陽の近くを周回して再び太陽系外へと旅立っていくが、太陽に近づきすぎて分裂・消滅する場合もある。こうした太陽の至近を通過する公転軌道を持つ彗星を総称して「サングレーザー」と呼び、太陽に最接近する「近日点」を無事に通過できれば、すばらしく明るい彗星になる。 アトラス彗星も、サングレーザーの1つ「クロイツ群」に分類される。米ハワイ大学が運用する小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)によって9月27日に発見されたこの彗星は、太陽系の外縁を取り囲む氷微惑星の集まりである「オールトの雲」からやってきた長周期彗星だ。 ■「ハロウィーン彗星」はどこへ? 天文情報サイトのSky&Telescopeによれば、アトラス彗星は28日、太陽から約120万kmの距離で近日点に到達した。先月末~今月に壮大な天体ショーを見せてくれた「紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)」の太陽との最接近時の距離が約5800万kmだったことを考えれば、アトラス彗星は太陽に極めて接近したことがわかる。これは彗星にとって致命的ともいえる近さだ。 近日点を通過すれば、これまで南半球からだけかすかに見える程度だった彗星の姿が、31日(木)のハロウィーンの朝にかけて北半球からも確認できるようになり、12月まで観測できるのではないかとみられていた。しかし、もはやそれは実現しそうにない。 ■今後はどうなる? 期待されていたような肉眼でも見える彗星になる可能性は、残念ながら潰えた。アトラス彗星が太陽に近づきすぎて分裂し、「コマ」と呼ばれる頭部を失ったのは、ほぼ確実だ。ハロウィーンの天体ショーは起きそうにない。 米アリゾナ州フラッグスタッフにあるローウェル天文台の天文学者チーチェン・チャン博士は「ここ数週間、C/2024 S1が分裂する様子を観測している」「分裂のプロセスはまだ続いているようだ。つまり、彗星はまだ完全に崩壊していない」と説明した。 分裂した彗星の核の残骸は、おそらく近日点を生き延びることはできないだろう。「最良のシナリオとして、非常に細長い尾が11月初旬の朝空に見える可能性はある」とチャン博士は語ったが、最も可能性が高いのは、彗星が砕け散り、11月には「ほとんど何も」見えなくなるという展開だ。 それでも、Sky&Telescopeのボブ・キングは、11月4日の日の出前に南半球から彗星の残骸を見られるかもしれないと指摘。「予想どおりに彗星が分裂した場合、頭部のない尾だけの『ダストの亡霊』が残る可能性がある。SOHOの画像を注意深く観察して確かめてほしい」と述べている。
Jamie Carter