じつは、はるか沖合で起こる「山体崩壊」で大災害が起こる…日本海の孤島に残る「噴火・崩壊」の現場と、「無視できないリスク」
新たな火山島の出現は、島を知り地球を知る研究材料の宝庫。できたての島でなくては見ることのできない事象や、そこから伝わってくる地球のダイナミズムがあります。そして、地球に生まれた島は、どのような生涯をたどるのか、新たな疑問や期待も感じさせられます。 今まさに活動中の西之島をはじめ、多くの島の上陸調査も行ってきた著者が、国内外の特徴的な島について噴火や成長の過程での地質現象を詳しく解説した書籍『島はどうしてできるのか』が、大きな注目を集めています。 18世紀、徳川吉宗治世下の日本海側を襲った大津波。その原因となった噴火活動を調査するため、松前の沖合にある無人の孤島「渡島大島(おしまおおしま)」へ、著者が上陸調査した模様をお届けします。 ※この記事は、『島はどうしてできるのか』の内容を再構成・再編集してお届けします。
日本最大の無人島に残る噴火の痕跡
松前半島は日本海を北上する対馬暖流の影響を受け、北海道の中でも平均気温が比較的高い。それでも一年の中で訪れるのに適した時期は限られる。 18世紀の噴火の調査を行うために著者が産業技術総合研究所や新潟大学の研究者らとともに渡島大島に向かったのは2019年7月中旬、気候が穏やかな時期だ。 松前半島の西端、最も渡島大島に近い位置に漁業の街、江良(えら)がある。津軽海峡とつながる江良沖の海域は海産物が豊かなことでも知られている。晩餐に新鮮な魚介を堪能し、翌早朝、漁船に乗り込み、約50km先の島を目指し出発した。 気候が穏やかとはいえ海上の風や波の状態は急変することがあり油断はできない。この日も漁船は時折やってくる高波に大きく揺られ、船にしがみつかなければいけない状況だ。 1時間ほどで松前半島は後方に霞み、やがて前方に小さな島影が見え始める。さらに1時間半、頂を雲に覆われた渡島大島がしだいに大きくなり、波打つ海の上に静かに立ちはだかっている。急峻な斜面と断崖に囲まれた山体はまるで城塞のようで、異様な雰囲気を醸し出している。 渡島大島は活火山の島であるとともに日本最大の無人島でもある。大きさは東4km、南北3.5km、標高は732mに達するが、実際には山体の裾野は水深1000m、直径 12kmにもおよび、島は氷山の一角にすぎない。島の東側では漁船避難用の漁港の建設・維持のために工事関係者が滞在するが、定住者はおらず公式には無人島に位置付けられている。 過酷な環境が人を遠ざけ、島の大部分に手付かずの自然が残されている。行政による保護の対象にもなっていて、とくに国指定の天然記念物オオミズナギドリの繁殖地であることから、上陸調査には文化庁長官の許可も必要だ。 ようやく島東岸の港に接岸し、慌ただしく荷物を陸揚げすると漁船はあっという間に引き返してしまった。まさに人が寄りつかない絶海の孤島に取り残されたという心境だ。 海岸線から一段上がった高台には飯場がつくられ、港で働く人たちはそこで生活している。調査はこの東岸を拠点として行われたが、目的地は山頂だ。すなわち海抜0mから700mを超える山頂まで、急斜面をひたすら登らなければならない。