『ガールズ&パンツァー』で活躍するBT-42突撃砲のご先祖様! クリスティー式を採用したM1931とは? 天才エンジニアの苦心が戦車で結実
傾斜装甲や電気溶接などの新機軸を投入し走・攻・守のバランスの取れたクリスティー式戦車
米陸軍の諮問機関である歩兵戦車委員会の審査で一度は退けられたM1928であったが、喧々諤々の議論の末、クリスティーは陸軍から改良型の試作を許されることになった。彼は車輌の試作費用として得られた5万5000ドルを元手に1930年から改良型戦車の開発に着手した。こうして誕生したのが、彼が手掛けた戦車の中でももっとも高い完成度を誇るM1931である。 【画像】『ガールズ&パンツァー』で活躍するBT-42突撃砲の足回りに採用されたのが「クリスティー式」の走行装置。 歩兵戦車委員会から指摘された火力の不足は、主砲に37mmM1916戦車砲の搭載が可能な旋回砲塔を新設し、副兵装として主砲と同軸に7.62mmM1919ブローニング機銃を備えることで対応したが、同じく不足を指摘された防御力の低さは正面装甲が12.7mm、側面装甲が6mmとM1928の装甲厚のまま変更を受けていない。ただし、前モデルが装甲板の接合をリベット止めしていたのに対し、今回の戦車は車体強度を高める電気溶接に改めている。 歩兵戦車委員会のオフィスでM1931の仕様書を一瞥した同委員会の審査担当官は 「これでは防御力がまったく改善されていないではないかっ!? どういうことか説明したまえ!」 と同委員会に訪れたクリスティーに激しく詰め寄った。 これに対してクリスティーは 「M1928の正面装甲にあったボールマウント銃座を廃することで設計を洗練し、傾斜装甲を最大限機能するようにしています。これにより見かけ上の装甲厚は同じ厚みの垂直装甲に対して3倍(クリスティーの弁。実際のところは2倍程度)の防弾性能が期待でき、砲弾の入射角が浅くなるので、被弾時には敵弾の運動エネルギーを分散し、跳弾させることで必要充分な防御性能を発揮します。また、装甲板の接合をリベットを減らし、電気溶接を増やしたことで、モノコック構造の車体強度が増すばかりでなく、被弾時の衝撃でリベットの頭がちぎれ飛び、車内を跳ね回ることが少なくなるので、乗員の死傷率や車載機器の破損率はより低くなるでしょう」 と涼しげな顔で答えたという。 クリスティーが設計したM1931は、世界に先駆けて本格的な傾斜装甲を取り入れた戦車であったが、まだ「避弾経始」の言葉が軍関係者の間でも広く知られる前の時代のことだ。担当官は説明を聞いても完全に理解しきれなかった様子で、狐につままれたような顔をしていたという。