石破首相「手のひら返し衆院解散」は“憲法違反”? 法的問題と解散が認められる“条件”とは【憲法学者に聞く】
裁判所が「憲法判断を避けた」ことの問題点
衆議院の恣意的な解散が行われた場合、それを訴訟で争い歯止めをかける方法はないのか。 実は過去に、衆議院の解散により失職した元衆議院議員が、解散は違憲であり無効だと主張して「選挙訴訟」を提起した例がある。 しかし、最高裁判所は、衆議院の解散は「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為」であり、「裁判所の審査権の外にある」として憲法判断を回避している(最高裁1960年(昭和35年)6月8日判決)。 上脇教授:「最高裁は、政府、国会等の政治部門の判断を尊重すべきと述べています。その論理はある程度理解できます。 しかし、最高裁が『裁判所の審査権の外にある』と断言してしまったことには問題があると考えます。 内閣が恣意的に解散権を行使しても、裁判所から違憲と烙印を押されるおそれがないために、その後、内閣による解散権の行使に歯止めが利かなくなっている現状を招く一因となったことは否定できません。 最高裁はせめて、恣意的な解散に歯止めをかけるための枠組みくらいは示すべきだったと考えています」
石破首相は「変節」した?発言の“変遷”を検証
以下は、2020年7月2日、新型コロナウイルス問題をふまえ、早期の衆議院解散が取りざたされた際、石破氏が行った発言の要旨である。この当時は「7条3号説」による解散を明確に批判していた。 「私は7条解散というのはすべきではないと、そもそも憲法論からしてそういう立場に立っている。信任案が否決、不信任案が可決された場合、あるいは予算が否決された、重要法案が否決された、そういう場合に限局すべきだと思っている。このコロナ禍の状況もそうだし、憲法の趣旨からいってやるべきだとは思わない」(【YouTube】共同ニュース 2020年7月2日「石破氏、早期解散に反対 新型コロナ問題踏まえ」) この発言は4年以上前のものなので、石破氏がその後に見解を改めて「7条3号説」を容認するようになった可能性は考えられるだろう。 しかし、石破氏は、2024年9月14日の自民党総裁選立候補者討論会でも、対立候補の一人だった小泉進次郎氏(「郵政解散」を行った小泉純一郎元首相の子)が早期に衆議院を解散すべきと主張したのに対し、以下の通り、批判している。 「国民の判断は厳粛に受けなければいけない。国民の皆様方が判断していただける材料を提供するのは政府の責任であり、新しい首相の責任だと思っている。(中略)同時に、解散は衆議院議員がこの国からいなくなることだ。それがどういうことなのかよく認識したほうがいい。そして、世界情勢がどうなるかわからないのに、すぐ解散するという言い方を私はしない。解散していい状況が整うかどうかを判断すべきだ。私は国民に対する畏れ(おそれ)の念は常に持っていたいと思う」(【YouTube】日テレニュース 2024年9月14日【自民党総裁選】候補者討論会 第二部(1:23:30頃から))※本体では埋め込み動画 仮に「7条3号説」に立場を改めていたとしても、9月14日時点では、早期解散には大義がないと明確に述べていた。この発言と、17日後の10月1日に首相就任早々、早期解散を表明したこととの整合性が問われるだろう。 実際に、世界情勢は不安定で予断を許さない。国内では大地震と大雨の被害が相次いだ能登地方の救済・復興の遅れの問題もある。 「社会契約論」を著した18世紀のフランスの啓蒙思想家ルソーは、代表民主制の問題点について、「有権者は議員を選挙する間だけは自由だが、議員が選ばれてしまうと奴隷となる」と喝破(かっぱ)した。 このルソーの指摘の通り、選挙の結果、国会の多数派を占めた政党ないしそれに支えられた内閣が、選挙を経たことで「民意を得た」とばかりに好き勝手に権力を弄ぶというリスクはたえず存在しており、実際にそれに類する例はこれまでも多数みられた。 石破首相は、10月10日に衆議院を解散し、衆議院議員選挙を27日に行うというスケジュールを表明している。もし、この通りに選挙が行われるならば、それまでに、私たちは国民・有権者として、果たしてどのような「民意」を下すべきか、慎重に考え、投票行動を決めなければならない。もちろん、その判断材料の一つには「内閣による衆議院解散権行使」に関する考え方や態度も含まれうる。
弁護士JP編集部