石破首相「手のひら返し衆院解散」は“憲法違反”? 法的問題と解散が認められる“条件”とは【憲法学者に聞く】
日本の議院内閣制は「国会が内閣に優位」
なお、上脇教授は、この点は「権力分立制」「議院内閣制」をどのように捉えるかにかかわると指摘する。 上脇教授:「権力分立制や議院内閣制について、国会と内閣を『対等』と位置づけ『チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)』を強調する立場からは、内閣の解散権に歯止めをかけようとする憲法解釈は導かれないかもしれません。 しかし、日本では、内閣総理大臣は国会により国会議員のなかから指名され(憲法67条)、内閣が国会に責任を負います(憲法66条3項)。したがって、日本の権力分立制・議院内閣制は純粋な『チェック・アンド・バランス』ではなく、国会に内閣よりも優越した地位を与えています。これは、国会が主権者である国民の代表機関だということに基づいていると考えられます。 主権者である国民の代表機関である国会が内閣に優位する地位にあると理解する立場からは、内閣の解散権に歯止めをかけるべきだと解釈します。 以上から、『積極的基準』と『消極的基準』が帰結できるのです」 この基準に照らしてみて、果たして、今回石破首相が宣言した「手のひら返し衆議院解散」は、憲法が許容する解散権行使の要件を充たしているといえるだろうか。
歴代内閣は「ほぼ無限定に行使」
前述したように、歴代内閣が採用してきた「7条3号説」からも、解散が認められるのは『民意を問うべき重大な政治問題が発生した場合に限るべき』という見解は成り立ちうる。 しかし、歴代の内閣は、衆議院の解散権をほぼ無限定に行使してきた。 有名な例としては2005年に小泉純一郎内閣が行った「郵政解散」がある。小泉内閣が「郵政民営化法案」を国会に提出し、衆議院では可決されたが、参議院で否決され不成立となった。それを受け、小泉内閣は衆議院を解散した。 上脇教授:「衆議院では郵政民営化法案が可決されたにもかかわらず、衆議院を解散することには理由がありません。 また、憲法が二院制を定め、衆議院と参議院に任期、選挙制度、解散の有無について差を設けている理由は、異なる民意を反映するためです。その趣旨も没却してしまうものです」