石破首相「手のひら返し衆院解散」は“憲法違反”? 法的問題と解散が認められる“条件”とは【憲法学者に聞く】
憲法の文面を根拠とする「69条説」にも「難点」…恣意的な解散を抑止するには?
ただし、内閣の衆議院解散権についての「7条3号説」からも、衆議院の解散が認められるのは民意を問うべき重大な政治問題が発生した場合のみに限るべきという見解は成り立ちうる。 他方で、衆議院を解散できるケースを内閣不信任決議が行われた場合等に限定する「69条説」も難点を抱えているとされる。 たとえば、衆議院議員の任期の4年間に、前回の選挙のときに想定されなかった、国民の権利義務に重大な影響を及ぼす重要な政治的課題が発生するなどのケースが考えられる。このケースにおいて、「69条説」では衆議院の解散によって民意を問うことが認められず、硬直的になってしまうとの批判がある。 ではどのように考えるべきか。上脇教授は「積極的基準」と「消極的基準」とに分けて検討することが有効だと説明する。 上脇教授:「私は、内閣の衆議院解散権の根拠は、わが国の憲法が先述した『議会優位の議院内閣制』を採用していることに求めるべきだと考えています。 解散権を行使できる要件を考えるにあたっては、憲法の規定を重視すべきでしょう。 また、①『どういう場合に認められるか』という積極的な基準だけでなく、歯止めをかけるために②『どういう場合に認められないか』という消極的な基準も明らかにすることが有効だと考えられます。 まず、①『積極的基準』については、憲法69条が規定する内閣不信任決議がなされた場合、あるいは、それにきわめて近い状況が生じた場合に解散が認められると考えるべきです。 たとえば、内閣が国民の権利義務にきわめて重大な影響を与える法案を提出したにもかかわらず、衆議院で否決され、国民に判断してもらう機会を提供したい場合です。 他方で、歯止めをかけるための②『消極的基準』として、『絶対に憲法が許容していない場合』は除外すべきです。 たとえば、選挙の結果が気に入らないのでもう一度やり直すとか、内閣・与党に有利なタイミングで選挙を済ませようとするなどあからさまな党利党略による場合や、衆議院議員の任期まで間があるにもかかわらず衆参同日選挙にするなど『二院制』の趣旨に反する場合は、認められないと考えるべきです。 この『積極的基準』と『消極的基準』の両面から判断すれば、グレーなケースはそれほど多くはないはずです」