督促状の入った封筒は届くたびに色が変わり、最後には真っ黒になった。選んだのは19歳での自己破産だった 成人年齢引き下げから2年、児童福祉関係者が「債務トラブルはますます増える」と断言する理由とは
中四国地方の児童福祉施設で暮らすケン(20)は1年前、自己破産した。自身の名義でクレジットカードを作り、重ねた借金は150万円を超えていた。きっかけとなったのは、2022年4月に実施された、成人年齢の18歳への引き下げ。当時18歳だったケンは「成人」としてすぐにカードを手に入れると、そこから様子が変わっていった。長年寄り添っている施設関係者はこんな言葉を口にした。「彼はこれから起きることの『先頭集団』を走っています」。各地の施設で今後、入居者の自己破産に立ち会う機会が増えるのは間違いない、とも話した。 【写真】いきなり後ろから押した瞬間、妻は「いやだ!」と叫んだが、そのまま海にザブンと落ち、車いすごと沈んでいった。男がしばらく海を見つめていると…
10代、20代の若者から全国の消費者生活センターに寄せられる多重債務の相談が増えている。成人年齢の引き下げにより、18歳、19歳は保護者の同意なしに各種の契約が可能となった。知識の不足が原因でトラブルに巻き込まれるケースも目立つ。親元を離れて10代が暮らす福祉施設を訪ねると、家庭環境や発達特性も影響している実情が浮かんできた。打開策はないのだろうか。(共同通信=広川隆秀) 【おことわり】 自立援助ホームには家族からの虐待を逃れてきたといった、複雑な環境に置かれた人が生活しています。個人の特定を避けるため、施設関係者は全て仮名としています。また、プライバシー保護の観点から一部の画像は加工しています。 ▽「試しに作った」はずのカードが生活を変えた 3月中旬、中四国地方の郊外にある自立援助ホームを訪れた。自立援助ホームとは、虐待や貧困などの理由で家庭にいられなくなった若者らが自立に向けて共に暮らす施設だ。児童相談所の支援対象で一時的に受け入れた子どもを含め、当時は10~20代前半の男性5人前後が生活していた。
責任者を務めるのが、松岡ゆみさん(57)と加藤さきさん(47)。ケンが中学3年だった15歳から関わるようになった。 加藤さんたちがケンの異変に気付いたのは、彼が18歳になって数カ月たった2022年4月下旬のこと。ケン宛ての書留郵便がホームに届いた。大手金融機関が発行するクレジットカードだった。受け取った加藤さんが問いただすと、ケンからはこんな返答があった。「俺でも作れるかどうか、インターネットで作ってみた」 ケンはそこから、夜になっても戻らないことが増え、外出も目立って多くなった。自立援助ホームに帰ってきても食事を取らないことが頻繁になり、部屋にはタバコ10箱入りのカートンが一つ置かれていた。 定職に就いていないため、収入はないはず。不思議だった。 夏に入ると、カード会社から督促状が届き始めた。最初は白い封筒。次が黄色で、その後は赤。最後には真っ黒な封筒入りで届いた。松岡さんは当時の驚きを今でも覚えている。「黒い封筒なんて、初めて見ましたよ」 ▽スマホを7台契約していた