石破首相「手のひら返し衆院解散」は“憲法違反”? 法的問題と解散が認められる“条件”とは【憲法学者に聞く】
「内閣不信任決議」以外の理由での解散が認められるか
上記のように、憲法上、文面から内閣の衆議院の解散権を認めていると解釈できるのは、衆議院が内閣不信任決議を行った場合のみである。 では、憲法解釈上、それ以外の場合に内閣が衆議院を解散することが認められるか、認められるとしてどのような要件が求められるか。 ここで登場するのが、天皇の国事行為としての「衆議院の解散」を定めた前述の「憲法7条3号」を根拠として、内閣の解散権を認める見解である。 天皇の国事行為は「内閣の助言と承認」に基づいて行われることになっている。そこで、この「内閣の助言と承認」の中に、衆議院を解散することの実質的な決定も含まれると解釈する。 これまでの内閣の多くは、この「7条3号説」を採用して解散権を行使してきた。 しかし、「7条3号説」に基づく解散には、与野党問わず国会議員の間で根強い批判がある。後述するように、石破首相も、少なくとも2020年頃までは明確に批判的な立場を表明していた。 また、憲法学界では批判的な見解が多数を占めているといってよい状況にある。上脇教授も、7条3号を根拠に内閣の解散権を認めることは、相当に無理があると指摘する。 上脇教授:「そもそも、『内閣の助言と承認』には、天皇が『ご乱心』なさらないようにサポートする程度の意味しかありません。そこに、衆議院を解散するなどというきわめて重大な事項についての実質的な決定権が含まれると解釈することは、論理的に不可能なはずです。 しかも、この見解によると、どのような要件で解散を認めるべきかが明らかになりません。内閣による恣意的な解散に歯止めをかけることができないのです。 特に日本では、首相が衆議院の多数派から選出されるしくみになっているので、内閣が国会の多数派と結びついて解散権を行使することで、多数派に都合の良い時期に解散権が行使されるおそれが大きいのです。また、実態もそうなってしまっています。 日本の憲法は、内閣が国会に対し責任を負う『議院内閣制』を採用し、議会制民主主義を重視しています(憲法66条3項参照)。 国会議員は主権者である国民から選ばれた存在です(憲法43条参照)。他方で、内閣は国民が選んだものではありません。したがって、内閣が実質的に衆議院より上の立場に立つことがあってはならないのです。 近近代国家の前提とされる立憲主義の下では、憲法の役割は『権力を拘束し、国民の人権を守ること』です。7条3号説は、それを崩してしまうおそれがあります」