AI時代の相続はどうなる? 可能性と限界、専門家の未来を考察
3. 元国税職員が挑戦、ChatGPTで相続税申告書を作れるのか?
昨今のAIに関するトピックといえば、やはり生成AIの進歩は外せません。2022年11月にOpenAI社がプロトタイプを公開したChatGPTが、その性能の高さから大きな注目を集めました。 ChatGPTの最大の特徴は、人間が自然と感じられる回答を生成できる点にあります。機械学習によって幅広い分野の質問に答えてくれるため、さまざまな業界で導入が進んでいます。 相続に関する相談も、ChatGPTに聞けばそれらしい答えを返してくれます。では、ChatGPTを使って相続税申告書を作ることは可能なのでしょうか? 実際に最新モデルの「GPT 4o」を使って試してみたいと思います。 まず、相続税申告書を作成したいことを伝えると、相続開始日などの情報を求められました。これらが申告書作成のために必要なのは間違いありません。必要書類の案内もあるのは親切ですね。 ただ、この続きを入力しようとすると、普通の人は手が止まると思います。「法定相続人とは誰なのか」「不動産などの財産をどう金額換算するか」といったことで迷ってしまうでしょう。 ともあれ、ChatGptに求められた「1. 相続開始日」「2. 被相続人の氏名、住所、職業」「3.相続人の氏名、住所、続柄」「4.被相続人の遺産内容(不動産、預貯金、有価証券、その他財産」「5.債務や葬儀費用の内容」を入力しました(登録した情報は、名前、金額を含めすべて筆者の創作です)。 すると、相続税の計算ステップに沿って、課税遺産総額(相続税の課税対象となる財産の総額)や相続税額を一瞬で算出してくれました。 そして最後に「申告書の記入例をください」と指示すると、「相続税申告書(第一表)」の記入例が示されました。 しかし、ここで出された計算結果や申告書の記入例には明らかな間違いがあります。まず、相続税は、各相続人が相続した遺産の割合によって調整する必要がありますが、単純に相続人の数で割った形で算定されています。また、財産の評価額も第1表の記入例に記載されていますが、本来は第11表に記載しなくてはいけません。 つまり、ChatGPTの言うとおりに相続税申告書を作ると、誤った内容になってしまいます。もしもこのまま相続税申告書に記載して提出したとしても、税務署からやり直しを求められることになるでしょう。 また、配偶者の税額軽減や小規模宅等の特例などの相続税額を減らす特例が、ChatGPTの計算では一切考慮されていないことも気になりました。一応、こちらから特例を使うよう指示をすれば再計算してもらえるのですが、指示を行う人が特例の存在を知らなければどうしようもありません。