80歳女性、夫の遺品をぬいぐるみに再生。独居老人の家がにぎやかに。人にあげたら喜ばれ、創作意欲は増すばかり…
そうはいっても箪笥の肥やしになってしまうのもなぁ……と、夫の冬用のもこもこシャツを未練がましく触っていた時にひらめいたのです。これでクマさんのぬいぐるみを作ったら、可愛いのができるかもしれない。 翌日、さっそく『初めてのぬいぐるみ』という本を買い、制作に取りかかりました。作り方とにらめっこしてああでもない、こうでもないと格闘した末に、やっとの思いで誕生したクマちゃん! つぶらな瞳を見つめていると、今にも「あのね、ぼくちゃんね……」と話し始めそうです。 愛犬が天寿をまっとうしてすでに20年近く、その愛犬の瞳を思い出してしまいました。そんなひとり暮らしの心の隙間をクマちゃんは優しくほんわか温め、癒やしてくれたのです。 愛しのクマちゃんにも家族を作ってあげよう! さっそく夫の洋服を使って次の制作に取りかかることに。あっという間に父さん、母さん、兄さん、弟、妹を作ると、クマちゃん一家が勢ぞろい。「母ちゃーん、兄ちゃんが意地悪する!」「おまえ、何言ってんだ! ずるいぞ!」 そんな声が聞こえてきそうです。独居老人の家がにわかににぎやかになり、私のぬいぐるみ作りに火が付きました。
◆派手なトランクスがブランドのスカーフのようで 独居老人の時間はたっぷりありますから、机の上に裁縫セットを並べて、暇さえあれば縫っていました。時には深夜1時までやっていたこともあります。 そうして、パンダ、ウサギ、タヌキ、犬など、『初めてのぬいぐるみ』に載っている動物キャラクターを2年ほどかけて全部制覇しました。 この勢いに乗って、今度は私の好きな馬に挑戦。インターネットで「馬のぬいぐるみセット」を買うことにしました。布や型紙のほかに、たてがみなど馬特有のパーツが揃っています。今まで作ったものより難易度は上がりましたが、でき上がった馬は可愛らしい! ご機嫌になり、もう一頭、もう一頭と、私の創作意欲はとどまることを知りません。 今度は箪笥の肥やしだった夫や私の古着を使って制作し、次々と愛らしいぬいぐるみに様変わり。10頭ほど並べてひとりで悦に入っている時、乗馬仲間にあげようと思い立ちました。 宅配便で送るとすぐに馬友は電話をくれ、「乗馬クラブのインストラクターに見せたら、私もほしいって! 作って」と弾んだ声で言うのです。馬を知り尽くしているインストラクターに気に入ってもらえるなんて腕が上がったわと、嬉しくなります。