料理人歴50年、中華の巨匠・脇屋シェフが表現する“中華鍋を使わない中華料理”とは?
炉窯で焼くのは賀茂茄子だけではない。きんきも然り。通常ならば煮込みや蒸し魚にしがちだが「Ginza 脇屋」では、魚も炉窯焼き。
香ばしく焼き上げたきんきには、きんきのあらと干し貝柱でとったソースを添えている。洋皿に盛り付けたそれは、一見、フレンチの一皿のようだが、ソースと共にいただけば、味わいはしっかりと中華。
品良く脂ののったきんきは口当たりも優しく、ソースの旨みと一体となり、深い余韻を舌に残す。その余韻に一役買っているのが昆布。水出しした昆布水をベースにすることで、旨みに奥行きが生まれているのだ。
ちなみに、アルコールは、シャンパン、ワイン共に充実。料理に合わせてソムリエがセレクト。ペアリング(20,000円)もある。
〆の食事も期待を裏切らない。まず、カウンターに置かれたのはガラスの器も涼しげな冷たい麺。透明なスープの上には、砂糖で軽くマリネしたトマトと胡瓜の千切りがトッピングされ、一見シンプルだが、実は手が込んでいる。「昆布と鰹のだし、トマト水、そしてチキンスープと3つのスープをブレンドしています」と脇屋シェフ。
見た目はモダンながら、冷やし中華を思わせる甘酸っぱい味わいは、ノスタルジーを誘う懐かしいおいしさだ。
これでフィニッシュと思ったらさにあらず。メインの?締めが登場。土鍋で炊き立ての白飯だ。米は、程よい甘みと粘りのあるななつぼしとふっくらと軟らかなあやひめをブレンド。どちらも脇屋シェフの故郷北海道の米だ。これを、数々のご飯のお供と何杯でもどうぞ、という趣向も中華では珍しい。
「最近は、最後に白飯と一緒にいろんなご飯のお供を出す和食屋さんが多いでしょう。あれっていいなぁと思ってね。取り入れてみたんです」と脇屋シェフ。とはいえ、そこはチャイニーズ。お供には中華のエッセンスを巧みに加味している。
焼いたきんきの尾の身をほぐしてイクラと共にXO醤であえたものや黒胡椒たらこ、しらす香味醤などなど。いずれもご飯が進むこと請けあい。時には、麻婆豆腐が出されることもあり、“無限ご飯”に陥ること必至。お腹いっぱい食べたら、脇屋シェフが自ら淹れてくれる風味豊かな中国茶とデザートで大団円。これまでとはひと味違う、新たな脇屋シェフの世界を堪能できる。