料理人歴50年、中華の巨匠・脇屋シェフが表現する“中華鍋を使わない中華料理”とは?
「この空間で、カウンター席と厨房の間にガラスなどの仕切りを置きたくなかったんです。とはいえ、それでは従来のような中華の手法で鍋を振るわけにはいかない。油が客席まで飛び散ってしまいますからね。それで、この店では、五徳と中華鍋を使わずに中華料理を表現しようと思っているんです」。常に時代を切り開いてきたレジェンドらしい新たな試みだろう。
鍋を煽る派手なパフォーマンスはないものの、お任せのコースでは、黒毛和牛や旬の野菜、産地直送の鮮魚が次々に登場。脇屋シェフ自ら素材をゲストにデモンストレーションした後、目の前で調理してくれる贅沢さ。そのひとときも、おいしい時間。立ち上る香りや音が五感を刺激する中、脇屋シェフも次のように語る。
「オープンキッチンは、お客様から絶えず注視されている緊張感がありますが、お客様の反応もダイレクトに伝わってくる。それが楽しいですね。箸の進み具合や表情、交わす会話の中から(お客様の)思いを汲み取り、料理の量や味を加減したりの微調整もできるので、より、やりがいを感じています」
レイノーやバカラ、そして作家ものの信楽焼きの和皿など器使いも洒落た「友厨房おまかせコース」35,000円の料理は、最後のデザートを含め全部で11~12品。その中には、炉窯で焼きたてのチャーシューや焼肉こと“クリスピーポーク”に“フカヒレの上海風煮込み”といったオーソドックスな皿から、秋田のじゅんさいを浮かべた上湯など和の旬食材を取りいれたオリジナルまで、料理の振れ幅の広さもさすが。“伝統と創作”を旨とする脇屋シェフの面目躍如たるところだろう。
中でもユニークなのは賀茂茄子を使った一品。賀茂茄子は、丸ごとホイルで包み炉窯で約1時間半蒸し焼きに。調理はただそれだけ。
和食なら仕上げに田楽味噌を塗るところだろうが、脇屋シェフは黒胡麻芝麻醤ソースをかけて提供。和のニュアンスと中華を違和感なく自在に融合させるセンスはさすが。ベテランならではの手腕だろう。