体操・日本に中国アウェーの壁
わずか0・1点差という数字が示すように、何が金銀を分けたのかを見つけるのが難しい試合だったのは、中国側から見ても同じだったようだ。 試合後の会見では、中国メディアから水鳥監督に対して、「予選のあん馬で落下のミスをした亀山耕平をあん馬の1番手に起用したのはなぜか」や、「平行棒で内村を使わなかったのはなぜか」という、かなり細かい質問が出た。中国メディアでさえも日本が負けた理由を、「張成竜の会心の演技」だけでは説明できなかったのだ。 質問に対する水鳥監督の答えは、「あん馬については、日本のローテーションは(1種目めの)ゆかと(2種目めの)あん馬の時間間隔が短かったから」というもの。「ゆかにも出ており、なおかつ5種目をやることになっている内村と加藤の疲労を考え、彼らの演技間隔を長くするため、亀山を1番手に起用した」と説明した。 平行棒で内村を使わなかった理由についても、「日本には、平行棒で内村と同じかそれ以上の実力を持つ選手が3人いるうえに、(5種目めの)平行棒と(6種目めの)鉄棒の間隔も短かった。だから、内村以外の3人(加藤、野々村笙吾、田中)に任せた」と明確に述べている。演技順や人選については失敗ではなかったという見解だ。 とはいえ、中国の最終演技者であった張は、最終種目の鉄棒がこの日の唯一の演技。想像に難くないプレッシャーがあったであろう反面、体力的にはまったく疲労のな状態で演技に臨むというメリットがあった。結果、ベテランらしく強靱なメンタルを見せ、D得点7・5点という高難度の構成をミスなくフィニッシュ。これ自体は日本勢の誰もが「強さを感じさせた」と認めている。 張自身も、「監督が私を最後の演技者とするのは前から決めていたことだ。日本と中国の実力はほぼ同じ。だから私は(演技の難度を示す)D得点が高くないと勝てないと思い、安定性はあっても難度の低い構成で臨むという考えは持っていなかった」と胸を張っている。張の演技には粗さがあったため、出来映えを示すE得点が内村の8・5点とほとんど変わらない8・466だったというところには疑問が残るが、目に見えて明らかなミスはなかったのも事実だ。 オーダーの妙に、地元の大応援というプラスアルファが加わっての中国優勝というのは衆目の一致するところだろう。内村が会見で「僕たちもやることはしっかりやったが、中国はプレッシャーのかかる鉄棒で3人がミスのない、気迫ある演技をそろえてきた。0・1点は気迫の差だったと思う」と言うと、国際体操連盟の英語通訳は「気迫の差だった」の部分を“It's not a difference of skills”(技術の違いではない)と訳していた。超訳とも言える訳に、関係者の戸惑いが垣間見えるようだった。 (文責・矢内由美子/スポーツライター)