円安で進む外国人労働者の“日本離れ” 賃金だけでは「アジアに負ける」 労働力確保へ危機
外国人が働けて暮らしやすい国へ「考え直す時期」
ベトナムからの技能実習生らを支援するNPO法人日越ともいき支援会の代表理事を務める吉水慈豊さんは、日本で働けることを売りに外国人労働者を集めるような考えはもう通用しないと語る。 「もはや受け入れ企業が選ぶ時代から、選ばれる時代へと移っています。賃金もさることながら、福利厚生も日本人と同水準、または円安分の担保を用意できないと彼らに選んでもらえない。優秀な外国人材に集まってほしいのであれば、外国人の視点や発想に立って考え、結婚や育児を含め、外国人が安心して暮らせる環境整備が求められます」
外国人の労働問題に詳しい神戸大学大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授も、賃金の差だけで労働力を呼び込める時代はもう終わったとの見方を示す。 「『日本に行けば稼げる』と考えるアジアの若者はいまも一定数はいます。しかし、円安で『稼げる』イメージにも陰りが生じている。30年前は人手不足を補う労働力として中国人が主流でしたが、中国の経済発展や少子高齢化で人件費が上がり、ベトナム人が取って代わった。そのベトナムも経済発展で間もなく中国と同じ道をたどるでしょう。円安をきっかけとして、外国人材をどう受け入れていくべきか、真剣に考え直す時期に来ています」 前出の全日本病院協会の山本理事は、将来不足する介護人材を確保するためには「お金以外の価値を増やす」しかないと指摘する。 「すでに働いている女性たちからも『資格を取りたい』と聞いていますが、彼女たちが技能実習や特定技能でいる5年間のうちに日本で介護福祉士などの国家資格を取得すれば、実質的に在留資格の定めなく永住できます。もちろん母国に帰りたいという人は、日本で資格を取った後に途中で帰国し、母国の医療機関で指導的な役割を担ってもらってもいい。まずは日本に来た看護補助者たちに『日本の病院で働くのはよい』『日本で暮らすのはいい』と実感してもらうことが大事。彼女たちが日本社会に溶け込めるようにバックアップをしていくのが、受け入れ団体側にとって必要なことだと思います」
--------- 岩崎大輔(いわさき・だいすけ) ジャーナリスト。1973年、静岡県生まれ。講談社『フライデー』記者。政治やスポーツをはじめ幅広い分野で取材を行う。著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎 「異形の宰相」の蹉跌』(洋泉社)、『激闘 リングの覇者を目指して』(ソフトバンク クリエイティブ)、『団塊ジュニア世代のカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』(講談社)がある