円安で進む外国人労働者の“日本離れ” 賃金だけでは「アジアに負ける」 労働力確保へ危機
円より厳しいミャンマー通貨、日本選んだ2人の女性
神奈川県川崎市にある認知症疾患専門病院「かわさき記念病院」。パープルのユニホームに身を包んだ看護補助者のニン・メイ・ウーさん(24)とジン・ジン・モーさん(26)が顔を見合わせて笑う。 「日本の冬は寒いですね。私たち暖かいところから来たから。でも、雪は見てみたいです」
2人ともミャンマーの旧首都ヤンゴン出身。日本に来る前、ニンさんはマーケティング関連の仕事をし、ジンさんは看護師の職に就いていた。 2022年7月に技能実習制度で来日し、9月から看護補助者として同病院で勤務している。国民年金や健康保険や税金、寮費などを引いて手取りで月15万円。2人とも毎月10万円を家族へ送金しているという。 ミャンマーの通貨チャットは、円より厳しい状況にある。ミャンマーでは2020年からのコロナ禍で景気が陰るなか、2021年2月に軍事クーデターが発生。以後、欧米から経済制裁を受けた上、海外からの投資が急減し、経済は混乱した。対ドル相場でチャットは暴落し、2021年1月時点は1ドル1300チャットだったが、2022年12月には2100チャットまで下がった。一方、同時期の対円では12チャットから15チャットの下落にとどまり、国際的に円が安いせいもあって下げ止まっている。 対円ではチャットの価値が相対的に維持されているからこそ、ミャンマーを出る働き手には日本を選ぶ人がいる。ニンさんの妹もその一人だ。ニンさんは言う。 「18歳の妹も日本で働くために日本語を勉強しています。日本に来るには仲介業者に一定の費用を支払いますが、それでも日本でしっかり働けば返していける。日本だと安心して働けるし、『鬼滅の刃』など好きなアニメも多い」
こうしたジンさんやニンさんら看護補助者の人材をアジアから呼び寄せているのが、全国約2500の民間病院が加入する公益社団法人全日本病院協会だ。外国人材受け入れの担当役員で、横浜メディカルグループの理事長、山本登さんは長く日本で働ける人材を呼び寄せようと活動してきたが、最近ベトナムでは確保が難しいと語る。 「昨年10月にもベトナムに行きました。そのちょっと前まで、現地で日本語を勉強していた20人近くが訪日を約束していたのですが、『円安で稼げないからやめます』と半数から断られた。お金で勝負をしたら、台湾や韓国、オーストラリアに負けてしまうのです」 どの産業、どの業種も人手不足に悩むが、ニンさんやジンさんが働く看護・介護業界は深刻だ。厚生労働省は介護人材が2025年度に32万人、2040年度には69万人不足すると推計している。 全日本病院協会は現地の医療短大(ベトナム)や一般大学(ミャンマー)などと連携し、2019年から80人のベトナム人と20人のミャンマー人の技能実習生を受け入れ、全国38の病院に看護補助者として送り出してきた。 だが、そうした試みを台無しにしつつあるのが円安だ。「日本人と同様の条件」という待遇や条件が、円安という状況変化によってアピール要素にならなくなった。時間をかけて日本語を学んできた人まで、その労を捨てて他の国に働きに出てしまう。「相当大きな変化が起きている」と山本さんは言う。