ヌードや性的なシーンを調整、今求められる“インティマシー・コーディネーター”
ヌードや性的なシーンで俳優側と制作側の間に立ち調整・サポートする “インティマシー・コーディネーター(IC)”。2017年からの「#MeToo運動」を受けて生まれたといわれる新たな職業で、アメリカ、イギリスなどでは現場への導入がスタンダードになりつつあり、日本でも2022年の「流行語大賞」にノミネートされるなど近年注目されるようになってきた。アフリカ、欧米、アジアでの海外ロケなども多数経験し、国内外問わず活躍する西山ももこさんに、“IC”の仕事について話を聞いた。 【動画】西山ももこさんがICを務めるBLドラマ
インティマシー・コーディネーターの仕事
――日本ではまだ数人しかいない“インティマシー・コーディネーター(IC)”。インティマシー(intimacy:親密な)なシーンの調整を担うICについて、具体的な仕事内容について教えてください。 「台本には何をするかまで詳しく書かれてないことが多いので、まず性的なシーンに関して曖昧な部分をピックアップして、監督に確認します。例えば『2人が一夜をともに過ごす』と書かれていた場合、性行為があるのか、ただ単に一緒に過ごしただけなのか、2人は服を脱いでいるのか、何をしているのか…などを明確にした上で、俳優に『ここでキスをします』など台本には細かく書かれていない部分で何をするのかを伝えます。 それを受けて、『このシーンは必要なのか』という意見や、『ここまでならできる』との線引き、『こうやったらどうか』との提案など、俳優本人の意向を確認した上で、演出側に戻します。そこから演出側が、アングル、着衣、行為など最終的な演出を練って、再度、俳優に戻して、現場の全員が納得した状態で撮影に入れるように調整します」 ――折衝をするにあたって、どちらの立場にも立たずに話を進めるのは難しいのではないかと想像するのですが、心掛けていることはありますか? 「作品を良くしたいという思いは俳優側も制作側も一緒なので、それほど大変という感覚はないですね。俳優も、出演したことに誇りを持ちたいという思いや、これをきっかけに売れるという面も含めて、作品に賭けている部分もあります。俳優が『これはやりたくない』と主張するケースは多くなく、『作品をより良くするために、ここまでできるけど、これは避けたい』という話し合いになります」 ――俳優側としては、プロデューサーや監督、事務所関係者など“力”の強い方には本音を言えない…ということもありそうです。俳優がOKしたとしても実は無理をしているのではないかといことを見極めることも必要になりそうですね。 「そこが難しくて、真の同意は簡単に取れるものではないです。ですので、俳優との話し合いの際は、『今ここで私にOKを出しても、実際に撮影環境、相手役、スタッフや監督を見て『やはりやりたくない』と言っても問題ないので、遠慮なく言ってください」とお伝えしますし、『一度口にしたからには必ずやらなきゃいけないんだと思わないでほしい』と確認もしています』 ――俳優側だけでなく、制作側にとっても、あやふやなところを事前にクリアにすることで演出もしやすくなるし、なぜこのシーンが必要なのかを再確認することにも繋がるなどメリットが大きいのではないかと想像します。 「一度ICを起用した現場にはまた呼ばれることが多いので、制作側としても作業効率は上がるのだと思います。事前に話し合って何をするかを理解し、お互いに意思確認ができていれば、撮影中に『こんなの聞いてない』と現場が止まってしまうこともないですし。 また、これまでは、例えば“前貼りは衣装部とメイク部どちらが用意するか”など、明確でない作業はいろんな部署のスタッフが背負っていました。性的なシーンの撮影は最少人数で行うなど気を遣ってはいたけれど、誰かが仕切ってやっているわけではなかった。こういう部分の仕事の線引きが明確になることで、現場の負担も軽減されているのではないかと思います」