ヌードや性的なシーンを調整、今求められる“インティマシー・コーディネーター”
海外と日本の撮影現場の違い
――日本でも少しずつ現場での導入が広まっているICですが、海外ロケのご経験も多い西山さんから見て、海外と日本の撮影現場の違いを感じますか? 「大きな違いは、海外の撮影現場では各々の業務が明確で分業がしっかりしていること。それでも言いにくいことがあるから、ICが求められているのだと思います。海外でも、プロデューサーや監督のようにパワーを持つ人に対して“仕事がなくなるんじゃないか”と恐れて言いたいことが言えないことはある。日本の場合は、それに加えて『相手に言ったら悪い』とか『嫌な気持ちにさせてしまうかも』という気遣いから言えないケースが多い気がします」 ――近年、日本のエンタメ業界は長年の問題が表面化するなど大きく生まれ変わっているところだと思いますが、ICの立場から日本の撮影現場の変化は感じますか? 「今、同時進行で6、7作くらい担当していますが、ICという仕事に対する理解の広がりを感じます。以前のようにICの存在や仕事の説明から始めなくてもよくなってきました。広がり方のスピードは早いと感じていますし、変化してきていると思いますが、もっと変わらなきゃいけない課題もありますね」 ――どういうところですか? 「例えば、労働環境ですね。徐々に改善されつつあるとはいえ、日本の現場はまだまだ長時間労働が当たり前。海外のプロデューサーの言葉で印象的だったのは、『日本で撮影する理由は、人件費も安いし、長時間働いてもらえる』。海外では、労働時間が1日8時間、10時間など決まっているのに対して、日本では1日16時間、20時間でも働く。しかも、真面目だから時間は必ず守るし、仕事もそれなりのものを上げてきてくれるから『日本で撮影するのはメリットしかない』と、少しなめられてしまっているところもあります。現場では忙し過ぎて疲弊している人も多く、そうなるとクリエイティビティも失われていく。悪循環ですが、これはなかなか変わらないだろうなとも思います」 ――なるほど。“やりがい搾取”などとも言われますが、真面目でよく働く日本人の美徳とされるところが、環境の改善を妨げている部分もあるんですね。 「責任感が強いのは日本人の良いところでもあるのですが、無理をしてでもやってしまうと、“この環境でできるんだ”と思われて改善されないんですよね。そういう根本的なことが変わっていかないと、インティマシーシーンだけ『丁寧にやった』と言われても、それでいいのかと疑問を抱きます」 ――ICを入れていることで、撮影現場の全てが健全だというアピールに使われてしまう可能性もあると。 「ICが増えるのは健全で良いことですが、“現場にICを入れておけばいい”というわけではないと思います。その作品でICがきちんと仕事できているかどうか、仕事ができる環境なのかどうか、観ていただく方に感じていただきたいんです。私は、自分の仕事ができない現場には入りません。名前だけ貸してほしいと言われてもお断りしますし、現場に行けない依頼は受けないと決めています」 ――これから益々重要になるお仕事ですし、目指す方もいると思いますが、ICに必要な資質は何ですか? 「“コーディネーター”という立場なので、人と人の間に入ってコミュニケーションをとるのが苦痛ではないことが重要だと思います。例えば、打合せにしても、多忙な俳優側のスケジュールに合わせるため自分の予定を変更しなければならなかったり、急に連絡が来て対応しなければいけないこともあります。私でも、人とのやりとりで疲れちゃったな…と思うこともあります。 私たちは“正しく”いなければならない人たちでもないし、自分自身のやりたいことを主張ができるわけでもないんです。自分がどこまでもコーディネーター=調整役であるということを忘れず、完全に裏方で仕事ができる人が向いていると思います」 【プロフィール】 西山ももこ(にしやま・ももこ) インティマシー・コーディネーター、ロケコーディネーター、プロデューサー。著書に「インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど」(論創社)。ドラマ「25時、赤坂で」(テレビ東京)などを手掛ける。