【歌舞伎役者・市川團子インタビュー】「憧れの祖父と同じ役を、本気の熱量で演じる」『ヤマトタケル』で中村隼人とW主演
ソファーにもたれ、大人びた表情を見せたかと思えば、そんな自分に照れたのか、屈託のない笑顔がこぼれる。 【写真多数】歌舞伎役者・市川團子の撮り下ろしをすべて見る 歌舞伎俳優・市川團子、19歳。祖父は現代的な演出を大胆に取り入れた「スーパー歌舞伎」を創始して、歌舞伎界の革命児と言われた市川猿翁。若い世代の成長が目覚ましいいまの歌舞伎界で、期待は高まるばかりだ。コロナ前は173センチだった身長もいまや179センチ。伸び盛りなのは身長だけではない。10月の立川立飛歌舞伎『義経千本桜 忠信編』では「道行初音旅」の忠信を初役で踊るなど、大役を演じる機会が増えた。 「僕はどの役でも『大役だ』とかあんまり考えないんです。頑張らなきゃと思うだけです。とにかく基本に忠実に。習った通りに楷書で踊るのがいちばん大事なので、まずはそれを心がけました」 端正な踊りから一転、狐の本性をあらわした忠信が飛び跳ねながら引っ込むという幕切れに、惜しみない拍手が湧いた。歌舞伎座より1.5倍も長い花道をものともせず、高く飛ぼうとする姿に胸が熱くなる。 「若い時にしかできないので、できるだけ高く飛びたかったんです。高く飛ぼうとすれば転びそうになるし、鳥屋(とや)に入った瞬間、毎回息が切れていましたけど、とにかく出せるだけ出す、飛び切るというのを思っていました」 歌舞伎はカッコイイ。少年の日の憧れが、いまも背中を押す。 「子どもの頃、初めて歌舞伎をかっこいいと思ったのは見得なんです。スーパー歌舞伎でいうとヤマトタケルの速見得。普通はパーン、パンというリズムなのが、じいじの見得はパンパーン! 速いんですよ。身体能力が異次元ですから。自分が歌舞伎を好きなのは、じいじの存在がやっぱり大きいです」
思わず号泣してしまった、祖父との思い出
2023年は彼にとって激動の1年だったかもしれない。9月には「じいじ」と呼んで慕う祖父が逝った。 「2020年に『連獅子』を初めて踊らせていただいた時、中日過ぎくらいに楽屋にじいじが来て、どうでしたかと聞いたら静かに手で丸ってやってくれて……。それを見て、号泣しました。本当に本当にうれしかった。この先、何度も思い出すと思います」 憧れてやまない人と同じ演目の同じ役を受け継ぎ、演じるのも歌舞伎ならではの醍醐味だろう。 24 年春、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』で、ついに主人公のヤマトタケルを演じる。祖父が切り拓いた『スーパー歌舞伎』の記念すべき第一作であり、彼にとっては12年に初舞台を踏んだ思い出深い作品でもある。 「自分がヤマトタケルを演じさせていただくことが未だに信じられないです。作品としての魅力は『私は幼い頃から常の人々が追わぬものを、必死に追いかけたような気がする。それはなにか、よくわからぬ』というせりふに集約されている気がします」 兄を誤って殺し、父帝の怒りを買った小碓命(おうすのみこと)(のちのヤマトタケル)は熊襲(くまそ)討伐を命じられる。 「戦いに勝ちたいとか父上に許してもらいたいという目的はあるけれど、もっと大きなものが胸の内にあって、それを追い求めて旅をしているというのが面白いところだと思うんです」 ドラマティックなストーリーと、早変わりや宙乗りなど外連味たっぷりの演出。一大スペクタクルとしての面白さはもちろん、若い團子が演じることで瑞々しい青春ものとして新たな魅力が吹き込まれそうな予感がある。激しい立ち回りに備え筋トレも始めた。 「歌舞伎はどちらかというと下半身に筋肉はつくのですが、体質もあるのか、上半身が痩せていっちゃうんです。母からも『筋肉つけておいたほうがいいよ!』と言われて、ジムに通い始めました」 憧れを追いかける遥かな旅は、まだ始まったばかり。気負わず自然体だが「澤瀉屋の歌舞伎の魅力は?」と尋ねたら「熱量だと思います」、と即答だった。 「僕も熱量だけは誰にも負けないように、頑張ります」