「懐に拳銃を忍び込ませ、車で銀座に向かった」“伝説のヤクザ”が力道山の殺害を計画…安藤組組長・安藤昇が起こした「力道山事件」の顛末
東富士の徹底した気遣い
ところが、のちに、『純情』のボーイの1人が、安藤組が東富士や力道山との間で話し合いしていたことを知らないで、別件で警察に捕まった。 その男は、さらに、円山町の料亭で東富士らを前に、安藤組の7人が、座卓の上にそれぞれ7丁もの拳銃を取り出して脅したこともしゃべってしまった。 その7人と安藤に、令状が出た。 安藤が言った。 「ひとまず、ズラかろうぜ」 安藤、花田、大塚はじめ5人で、北関東へ逃げた。12月の寒いときである。そのうえ、逃げる先は、北関東である。 大塚は、逃げる寸前に東富士に連絡を入れた。 東富士は、わざわざ見送りに来てくれた。 「手違いから、大塚さんたちにごめいわくをおかけしまして。寒いところへ行くんだから、厚手の下着を着て行ってください」 買ってきた下着を、みんなに渡した。東富士が被害者で、大塚らが加害者なのに、東富士の気の遣い方は徹底していた。 大塚は、あらためて思った。 〈この男は、なんという心根が優しいんだろう〉
大下 英治/Webオリジナル(外部転載)