「懐に拳銃を忍び込ませ、車で銀座に向かった」“伝説のヤクザ”が力道山の殺害を計画…安藤組組長・安藤昇が起こした「力道山事件」の顛末
いくら包んだら許してもらえるのか
東富士の車には、大塚稔(安藤組の大幹部)が乗りこんだ。東富士が、車中で、困りきった表情で懇願した。 「なんとか、解決の糸口を見いだしてほしい」 「………」 「お金ですむことだったら。しかし、いくら包んだら許してもらえるのかわからない」 「恐喝じゃないんだから、いくら出せとはいわない。ただ、悪いと思ったら、包んだらいいんじゃないの」 大塚の肚(はら)の中は、金銭での解決の場合の額は決まっていた。50万円――。それ以下の金額だったら蹴ろうと決めていた。 東富士は、一瞬考えていた。 「100万円つくる」 大塚は、東富士と接していて、彼の人柄の良さがよくわかった。力道山には頭にきても、東富士への憎しみはなかった。 大塚は、東富士の誠実さに免じて、彼を救ってやることにした。 「100万円という話は、おれは聞かないことにする。50万円つくれ」 大塚は、釘を刺しておいた。 「しかし、あんたが100万円つくるといったのに、おれが50万円といったことが知れるとヤバイ。あくまで、2人だけの話にしよう」
「これで、リキさんの命は取らないでほしい」
円山町の約束しておいた料亭に、東富士をはじめ花田らが集まった。 「席に着きなさい」 花田は、そう言うと、座卓の上に、懐から拳銃を出して置いた。 花田に合わせ、安藤組の他の6人がそろって拳銃を取り出し、座卓の上に置いた。おれたちは、中途半端な気持ちでかけあいをしているんではない、ということを見せつけたのである。 7丁の拳銃が並んで置かれると、さすがに威圧感があった。 東富士らは、顔を強張らせ、震えあがった。 5日後、大塚のところに、東富士から電話が入った。 「約束どおり、50万円つくった。これで、リキさんの命は取らないでほしい」 大塚は、東富士の誠実さに免じて答えた。 「わかった。受け取る場所を、おれは指定しない。おまえのほうで、場所と時間を言え」 もしこちらが場所を指定すると、恐喝になる。 「では大塚さん、新橋へ出て来てくれ。第一ホテルと虎ノ門の間に、『エトランゼ』という小さなバーがある。そこに、夕方の6時に来てくれ。ただし、1人で来てほしい」