「懐に拳銃を忍び込ませ、車で銀座に向かった」“伝説のヤクザ”が力道山の殺害を計画…安藤組組長・安藤昇が起こした「力道山事件」の顛末
「おれは東富士を信用している」
大塚は、さっそく『東京宣伝社』(花田瑛一と森田雅がつくった会社)に顔を出した。 そこにいた花田と森田にそのことを話すと、森田雅が制した。 「大塚、1人で行くのは、やめとけ。危険だ」 花田も心配した。 「金を受け取ったあと、カウンターの中に隠れていた警察に、現行犯で逮捕されるぞ」 が、大塚は言い張った。 「大丈夫だ。おれは、東富士を信用している。1人で行くよ」 大塚は、東富士が100万円払うといったのを、あえて自分が50万円でいいと言ったことを花田らに隠しつづけていた。東富士との密約があるかぎり、東富士は裏切ることはありえない。そう固く信じていた。 花田が言った。 「わかった。おれたちは、バーの中までは入らない。ただし、おまえのことが心配だから、バーの近くで待っている。もし金のやりとりで御用になりそうだったら、急いで店の外に出ろ。おれたちが、拳銃で威嚇するからな」 約束の夕方の6時、大塚は、花田らと『エトランゼ』の近くに車を止めた。かすかに小雨が降っている。 大塚だけが降り、店内に入った。花田と森田は、店の近くに待機していた。大塚が店内に入ると、東富士が1人で待っていた。
大塚と東富士はバーで一緒にジュースを飲んで…
大塚が座ると、東富士が、テーブルの下で新聞紙の包みを出した。 大塚は、その包みを受け取る前に、カウンターに眼を放った。東富士を信じていたものの、やはり、その後ろに、警察が隠れているかもしれない。のぞきこみたい誘惑にかられた。が、みっともないので、自分を制した。 ボーイに眼を走らせた。 〈刑事が、このボーイに変装しているにしては、若すぎる〉 大塚は、テーブルの下で新聞紙の包みを受け取った。 持ってきていた鞄に、素早くしまいこんだ。中身の確認はしなかった。大塚は、すぐにバーを出るのも不自然なので、東富士とジュースをいっしょに飲んだ。 あとは何も話さず、 「では、またな」 と言って外に出た。 バーの近くでは、花田と森田が車を止め、やきもきしながら待っていた。大塚は、急いで車に乗りこむや言った。 「うまくいった」 大塚は、東富士から受け取った新聞紙を開いた。約束どおり、50万円あった。その夜、大塚はその50万円を持って、東興業へ行き、安藤に報告した。社長室にいた島田宏が、険しい表情で言った。 「大塚、それはまずい。恐喝になるぞ」 安藤の知恵袋的存在であった島田は、法律にくわしかった。 「手形でいいから、50万円、東富士に渡しておけ」