大谷翔平の右肘負傷はバッティングに影響する? 術後のリハビリ・プレーへの影響を専門医に聞く
肘のケガはバッティングに影響する? 元どおりにプレーできるのはいつなのか
編集部: 内側側副靱帯(MCL)はバッティングでも損傷することがあるのでしょうか? 正富先生: 右投げ・右打ちの場合、損傷する可能性が全くないとは言いませんが、少なくとも1回のバットスイングで損傷するということは考えにくいですね。 基本的には靭帯の外側にある「屈筋」が働くため、肘の靭帯を損傷するほどの過度な外反ストレスはかからない場合が多いのです。 編集部: バッティングは、手術後どのくらいで開始できますか? 正富先生: 右投げ・右打ちの場合、右肘のトミー・ジョン手術の直後はバッティングを制限します。その目安は最低3ヶ月です。大谷選手の場合は左打ちなので、理論的には右肘の内側側副靱帯に負担がかかることはありません。 左打ちで右肘の内側側副靱帯に負担がかかる可能性としては、バットがボールに当たった後の「フォロースルー」が右手一本になった場合などが考えられますが、それにしても靭帯が損傷するリスクは限定的だと思われます。 編集部: 手術をすることで、早期に元通りのプレーができるようになりますか? 正富先生: 手術をしたからといって、全員が早期に元通りのプレーをできるようになるというわけではありません。 特殊な外力がかかったわけでもなく、選手としては普通に投球する中で靭帯を損傷したのですから、手術後もその野球に戻るということを考えれば理解できると思います。 手術後の靱帯は、移植した腱で代用したものですから「正常より強い」靱帯になることはありえません。 そのため手術後の靭帯に今までのような負荷がかからないようなパフォーマンスを身につけるために、肘や腕だけではなく全身のコンディショニングやフォームの見直し、それを維持し続けることができるようになる必要があります。そこに時間がかかってしまうのです。
編集部まとめ
野球選手に多い肘の内側側副靱帯(MCL)損傷は、1回の投球動作ではなく繰り返しの負荷が原因で徐々に靭帯が損傷しており、その弱くなった靭帯がついに靭帯再建が必要となるほど断裂をきたすのだと教えていただきました。 また、バッティングへの影響については、利き手やフォームによっても異なるとのことでした。手術後はすぐに元通りのプレーができるわけではなく、復帰には時間と努力が必要不可欠です。 本稿をきっかけに、読者の皆様が「肘の靭帯損傷」について知るきっかけとなりましたら幸いです。
【この記事の監修医師】 正富 隆 先生(社会医療法人行岡医学研究会 行岡病院) 一般社団法人日本肘関節学会 理事長。大阪大学整形外科、大阪厚生年金病院などを経て現職。手の外科、投球障害、四肢外傷などの上肢外科のスペシャリストとして広く知られている。日本整形外科学会 専門医・指導医、日本リウマチ学会 専門医、日本整形外科学会 リウマチ医、日本手の外科学会 専門医、日本リハビリテーション医学会 専門医。
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