大谷翔平の右肘負傷はバッティングに影響する? 術後のリハビリ・プレーへの影響を専門医に聞く
靭帯損傷後の経過とリハビリでは何をおこなうのか
編集部: 肘の内側側副靱帯は、突然損傷してしまうのですか? 正富先生: 野球では投球動作の繰り返しにより、何度も靱帯に負担がかかります。繰り返しの負担による軽い損傷が積み重なることによって、だんだんと靭帯が弱くなる場合が多いですね。 「肘の内側が張ったなぁ」という感覚は、筋肉の張りもありますが、実は靭帯が少し損傷しているという場合もあります。靭帯が切れているか・切れていないかではなく、徐々に損傷が進行していくということを多くの人に知っていただきたいです。 編集部: 肘の内側側副靱帯損傷で有名な治療方法を教えてください。 正富先生: 最も多く知られているのは、内側側副靭帯の再建術としておこなわれる「トミー・ジョン手術」です。 1974年にアメリカのフランク・ジョーブ医師によって考案された手術で、この手術を最初に受けメジャーリーグへ復帰したトミー・ジョン選手の名前から「トミー・ジョン手術」と呼ばれるようになりました。最近では肘内側側副靭帯再建術の総称的に用いられています。 編集部: 「トミー・ジョン手術」の術後はどのような経過をたどるのでしょうか? 正富先生: トミー・ジョン手術(MCL再建手術)の直後は、一定の固定期間の後に、徐々にリハビリを開始します。 初期段階では、肘の可動域を取り戻すことに重点を置き、その後は再建した靭帯を徹底的に保護しつつ、肘以外の部位(肩まわり、体幹・下半身)の強度と柔軟性を高める運動をおこないます。 靭帯再建術は骨に穴を開け、移植腱を通して靭帯にするので、骨と靭帯が強固にくっつかなければなりません。 ですから、靭帯が骨につき始める手術間もなくは固定したり保護したりしながら体のほかの部位を鍛え、一定期間の後、靭帯へ負担を徐々に許容しながら復帰を目指します。 編集部: 靱帯損傷の手術後は、どのくらいの期間で選手復帰を目指しますか? 正富先生: 例えば、関節の中にあるため治りにくいとされる、膝前十字靭帯でも手術から半年での復帰を目指します。一方で、肘の内側側副靱帯は関節の外にあり、周囲の血流も豊富なため、医学的には膝の前十字靱帯より早く十分に強くなると考えられます。 柔道のような格闘技の選手などは内側側副靱帯再建術後、半年以内に復帰することも多いですが、一方でプロ野球の投手として復帰する場合、靭帯を再度損傷しないよう安定したハイパフォーマンスの継続が求められるため、基本的には長期のリハビリが必要となります。 編集部: リハビリとしてはどのようなことをおこなうのですか? 正富先生: リハビリプログラムは、肘の関節可動域を広げる訓練から始まり、徐々に肘の安定性を高めるための筋力トレーニング、そして肩や上腕の筋力トレーニングや柔軟性の改善トレーニングを追加していきます。 同時に、投球動作に必要な体幹や下半身のコンディショニングやトレーニング、最終的には下半身・体幹から腕の振りに繋げるスムーズな運動連鎖訓練や投球フォームの見直しをおこないます。