“評価”ではなく“期待”をする 目標管理をしないクラシコムの「キャリブレーション」
一人ひとりにフィットする暮らしを提案する、株式会社クラシコム。同社が運営するECプラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」の商品販売を中心に、WEB記事、ポッドキャスト、オリジナルドラマやドキュメンタリーなどさまざまなコンテンツ制作も行っており、顧客ロイヤリティの高い企業として知られています。クラシコムの人事制度「キャリブレーション」は従来の人事評価制度とは全く異なり、“評価”ではなく“期待”に着目した制度です。業績評価も目標管理も敷かない仕組みとは。人事企画室の金恵栄さんと、筒井あい子さんに聞きました。
「人は人を正しく評価できるのか」という問いから生まれたキャリブレーション
――最初にクラシコムの事業について教えてください 筒井:2007年に代表の青木(耕平氏)と、その妹である佐藤(友子氏)が、北欧旅行から得たインスピレーションをもとに、ECサイト「北欧、暮らしの道具店」をオープンしました。現在は、ライフカルチャープラットフォームとして、さまざまな国の商品を取り扱うとともに、オリジナル商品の開発、メディアコンテンツの発信、国内の事業者に向けてマーケティングソリューションを提供しています。従業員は約100名です。 金:クラシコムのミッションは「フィットする暮らし、つくろう。」です。私たちはWell-Beingに繋がる要件として、自分の暮らしを自分らしいと感じ、満足できることを掲げています。お客さまの「フィットする暮らし」に貢献することで、ここちよい社会を築く一助になること、そして従業員自身もフィットする働き方を実現することを目指しています。 ミッションの実現に向けて、「自由・平和・希望」というマニフェスト(経営方針)と、「正直・公正・親切」というポリシー(判断指針)、「センシティブ・チャーミング・サステナブル」というフォーム(行動指針)を設けています。経営判断やマネジメント、日常のコミュニケーションに至るまで、すべての活動はマニフェスト、ポリシー、ミッションが反映されています。人事施策についても例外ではありません。 ――クラシコムの「キャリブレーション」という人事制度について教えてください。 金:通常、「キャリブレーション」と聞くと、査定会議における評価者の目線合わせを想像されるかもしれません。クラシコムのキャリブレーションには、「期待をすり合わせる」という意味があります。評価のすり合わせではないところがポイントです。そこには「人が人を正しく評価することは難しい」という思いがあります。 当社の組織開発は、「モチベーションを高める」のではなく、「モチベーションを阻害する要因を取り除く」という発想で進められてきました。会社の理念に対する強い共感と意欲をもって入社した仲間が、自然に力を発揮できるように環境を整えていくという考え方です。 筒井:従業員が20名程度の頃は、代表が全社員のパフォーマンスを見ながら随時フィードバックしていました。しかし組織が大きくなって、代表がすべてを見るのが難しくなり、マネージャーと協力する必要が生じてきました。会社とスタッフがともに良い状態を維持するにはどうすべきか試行錯誤した結果、従業員を厳密な指標で評価する方法をとるのではなく、期待を伝える方法にトライするという結論に至りました。 ――キャリブレーションは、どのように進めているのですか。 金:核となるのは、半期に一度行われる「キャリブレーション会議」と、「フィードバック1on1」です。キャリブレーション会議では、経営陣とマネジャー・人事が2日間にわたって、次の半期に従業員へ期待することのすり合わせを行います。 従業員への期待は、「ロール」という役割によって変わります。「ロール」は一般の会社でいう、等級に近いものです。Associateが4種類、Leaderが2種類、そして経営に近いVice Presidentと、7種類のロールを設けています。すべての従業員はいずれかのロールを担っていますが、それぞれがどのロールに相当するかはオープンになっていません。 キャリブレーション会議の1日目の多くの時間は、各ロールに期待することの再定義に充てられます。それぞれのグループは、「フィットする暮らし、つくろう。」という会社のミッションを念頭に置きながら、グループのミッションとプロダクトの具体的な内容を言語化します。 人事企画室であれば、「クラシコムのミッション実現のために、健やかな組織をつくり続けること」がグループミッションです。そのためのプロダクトが組織開発であり、採用を含めた人的リソースの調整、マネジメント支援、制度の開発と運用、労務管理という四つの機能を持っています。その実践に向けて、それぞれのロールを引き受ける人たちに何を担ってほしいのか、仕事を進める上で期待するフォーム(行動指針)の発揮はどのようなものかをを、会議で話し合います。 筒井:各グループで従業員に期待する行動などを言語化し、会社全体でバランスを取る作業と考えると、わかりやすいかもしれません。そのため、同じロールに対する期待値の難易度はグループ間で偏りなく定義することが重要です。 たとえば、部門によって特定の専門領域に特化するところもあれば、広い範囲を管掌するグループもあります。その際は、キャリブレーション会議で各グループのロールの内容を横並びで見ながら、難易度にばらつきがないかを調整し、参加者でディスカッションします。7種類のロールは給与テーブルにひもづいていて、期待する役割と給与は全社員に向けて公開されています。 当初はグループ単位ではなく、会社全体の共通のロール定義を設定するところから制度がスタートしました。したがって、今よりも抽象度の高い言葉でロールが定義されていたんです。しかし、スタッフに期待を伝えるときに、より具体的で業務とひもづいた言葉にしたほうが伝わりやすいし、マネジャーと本人の間ですり合わせがしやすいということがだんだんわかってきて、変更を加えて現在の方法に至ります。