“評価”ではなく“期待”をする 目標管理をしないクラシコムの「キャリブレーション」
腹落ちするまでコミュニケーションを惜しまない
――「キャリブレーション」を機能させるために、人事ではどのようなことに注意を払っていますか。 筒井:コミュニケーションを惜しまないことでしょうか。たとえばキャリブレーションのことは、採用段階、オンボーディング、キャリブレーションの対象になるタイミングで何回もお伝えしていますし、代表の青木は半年ごとに行われるリアルの全社員会議の場で毎回必ずそのコンセプトを話しています。クラシコムの根幹をなす重要な制度だということを、折に触れて従業員全員に感じてもらえたらと思っています。 金:「フィードバック1on1」でも、従業員が期待をイメージできるまで話し合いの場を継続して持つこともあります。本人に納得したうえで仕事に臨んでもらうためにも、期待を言葉にして丁寧に伝えることを強く意識しています。フィードバックの内容がデリケートな場合や慎重に進めたいときは、人事も同席するなど、相互理解のためにあらゆる手を尽くします。 筒井:企業風土にも関わりますが、クラシコムでは言語化や言葉を介してのやり取りを大切にしています。当社は現在、出社とリモートワークのハイブリット勤務で、リモートワークの割合の方が大きい状況です。コロナ禍をきっかけにリモートワークへ移行したのですが、以前から言葉によるコミュニケーションを重視する文化があったからこそ、対話の場がビジネスチャットに移っても、大きな問題は発生せずに、従業員は柔軟に変化に対応してくれました。むしろテキスト化することで、情報が見える化され、コミュニケーションの効率が上がったように感じることもあります。 ――互いに理解し合うために、コミュニケーションコストをかける文化が根づいているのですね。 筒井:新入社員には、自己開示の必要性をお伝えしています。「察してほしい」ではなく、言葉にして助けを求めること。「どうして気づいてくれないの?」ではなく、「わからない」「困っていることがある」と率直に伝えれば、仲間が力を貸してくれる会社だと知っていただければいいなと思っています。 金:不安やモヤモヤをそのままにせず、オープンにできる環境づくりも心がけています。社外取締役の倉貫義人さんが推奨されている言葉、“ザッソウ(雑な相談)”が社内では浸透していて、カレンダーにも「◯◯についてのザッソウ」と予定が組まれていることが珍しくありません。 筒井:キャリブレーションで期待を伝えた時点から、後に状況が変化して、具体的な担当領域や業務が変わったりするケースがあります。そのようなときは、通常の1on1や日々のコミュニケーションの中で、その背景を伝えます。キャリブレーションにおけるロールの定義は、絶対的なものではなく、会社や社会の状況に応じて変化していくものだと思っています。 金:キャリブレーションを続ける中で、社員に求められる役割として、ロールが徐々に高度化する傾向があります。社会の不確実性が高まり、変化が激しくなる中で、かつては不確実性への対処はLeader層が担っていました。しかし、今はSenior Associateにも求められています。 筒井:会社を取り巻く状況や、お客さまからの期待は日々変化しています。そのため、同じロールを担い続けることは、実は非常に高度なことです。ロールが変わらないことは、むしろ良い形で役割に貢献できている証であり、ことあるごとに全社に伝えています。 金:だからこそ、ラージチェンジでモチベーションを上げることは絶対にしません。モチベーションを「上げる」のではなく、「阻害要因を取り除く」設計にしていることは、先に述べたとおりです。また、ロールの高度化に合わせて、全体の処遇も見直しています。社会の変化と業務の難度、そしてそれに伴う処遇は、一体で検討すべきだと考えています。 ――コミュニケーションが制度のカギなのですね。 金:その通りです。キャリブレーション会議では、率直に意見を述べられるだけの心理的安全性が必要です。特に他のチームのメンバーのロールについて発言することは、非常に勇気がいることですから。 組織が健やかであるためには、横の関係でも深い議論ができる必要があります。そのためには、日頃からマネジャー同士がお互いをよく理解し、本音で語り合ったり、悩みを打ち明け合ったりできる関係を築くことが重要です。 そのため、人事の主要業務の一つに「マネジメント支援」をおいています。マネジャーを対象に毎月「お茶会」という交流会や、半期に一度のマネジメント合宿を開催していて、日頃どのような思いでマネジメントに臨んでいるのかを、率直に話せる場づくりを意識しています。先日も、「フィードバック1on1」が終わった直後にお茶会を開きましたが、経営・マネジャー・人事で1on1の様子や気づきを共有し合うことができました。