“評価”ではなく“期待”をする 目標管理をしないクラシコムの「キャリブレーション」
短期目標では得られない健やかな成長のための制度
――社員として、キャリブレーションをどのように捉えていますか。 金:前職では期初に数値目標を設定し、その達成に向けてどのように工夫するかが問われました。クラシコムに入社した直後は、指標がなく自分の働きが期待に応えられているのかどうか、戸惑いを感じたのは事実です。周りに「ありがとう」と言われても、本当にこれでいいのかと不安になりました。 一方で、数値目標がないからこそ、自分が果たすべき成果とは何かを深く内省しなければなりません。というより、内省せざるを得ない状況に置かれているんです。たとえば採用でも、「いつまでにこのポジションで○人採用しなければならない」という目標をマストに動いていません。組織やチームの状況を丁寧に捉えて、どんな人材がフィットするのか、どうすればその人材に出会えるのか、根本的なところから毎回真剣に考えていく必要があります。 仮に半期かけて一人も採用できなかったとしても、そのことで責められることはありませんし、数値目標を達成するために残業を強いられることもありません。 思うように成果が上がらなかったときは、自身の成果に対する認識が甘かったのか、プロセスへのコミットが足りなかったのかなど、自分の未熟さを突きつけられます。そのような意味では、ある種の厳しさと隣り合わせです。 ――目標という逃げ場がないことに、大変さがあるのですね。 筒井:目標管理がないからこそ、ロールの本質を理解し、貢献とは何かを問い続ける必要があると思います。クラシコムでは、「正射必中」という弓道の言葉がよく出てきます。正しい射法であれば、必ず的に当たることを意味しており、社内では「ミッションに向かって正しい構えで取り組み続けること」に当てはまります。 キャリブレーションは自分が注力すべきことは何か?ということを、日々マネジメントも従業員も考え続ける制度だと感じています。 ――貴社では今後も、キャリブレーションを続けていくのでしょうか。 金:私たちは目標管理という仕組み自体を否定するつもりはまったくありません。現在のクラシコムでは別のやり方をしているだけで、今後、組織の規模や体制、あるいは社会状況が変化する中で、目標管理制度がベストな手法だと判断したら、当然導入を検討するでしょう。 しかし現状では、キャリブレーションが健やかな組織を作る上で大事な制度だと認識しています。今後も、コミュニケーションコストを惜しまず、丁寧に続けていきたいと考えています。 筒井:キャリブレーションの仕組みも、最初から完成されていたわけではありません。先に述べた通り、ロールへの期待をチームごとに定義するなど、運用開始から8年ほどの間にブラッシュアップし続けています。 私自身、特に最近、ロール定義を半期ごとに頻度を高くして見直すことの重要性を感じています。一度定義を作ると、つい固定化したものとして捉えてしまいがちなのですが、定期的に全社的な視点で、従業員への期待を明確に言葉にするプロセスを通じて、会社の現状を把握できます。 「どのチームもこの要素に強く注目しているのか」とか、「クラシコムに対するお客さまの認識は、このように変化しているのか」といったことが、はっきりと見えてきます。 金:キャリブレーションは一見、短期的な成果には結びつきづらい仕組みに思えるかもしれません。ただ、不要な競争意識や他責思考が生まれにくく、変化に柔軟に対応でき、経営やマネジメントと従業員間で繰り返しコミュニケーションすることで信頼関係が育まれていく制度だと考えています。そういった土壌をつくることが、日々のマネジメントを下支えし、事業と組織の健やかな成長につながると信じています。