音楽家・渋谷慶一郎と香水ブランド「ラニュイ パルファン」、アーティスト・和泉侃がつくる“音楽×香り”の一夜 ピアノソロコンサート「Living Room」が提示する可能性
――作品の受容の話で言うと、プレスリリースに寄せたコメントではエリック・サティにも触れていましたね。サティが観客に対して「自由に振る舞え」と言っても、結局みんな音楽を聴き入ってしまう。そういった状況をステージ側から壊したい、と。
渋谷:サティの「家具の音楽」についても、僕は思うところがあって。僕はオーディエンスと自分との関係をいかにフレキシブルにしていくかということに興味がありますが、 ほとんどの人は「自由にしていいよ」なんて言われても、自由どころか、もっと不自由になるだけです。
だけど、自由にやっている人を見るのは、みんな好きなんです。だから「リビングルーム」というコンセプトのもとに空間を構成しパフォーマンスを行うことで、コンサート体験の枠組みや演者とオーディエンスの関係性について、新しい枠組みや可能性を提示できるのではないかと考えました。
――具体的な演出や選曲についても教えていただけますか?
渋谷:家具が配置されたステージでは、ゲストのバイオリニストである石上真由子さんが、曲を弾き終えてもステージからはけずにソファに座って休んだり、次の曲を準備したりするなど、よりシアトリカルな演出を検討しています。
そんな環境でパフォーマンスする上で、どういう選曲がいいかと考えた結果、アルヴォ・ペルトや高橋悠治さんの曲も弾くことに決めました。ただ心地良いだけの音楽も、ただ不快なだけの音楽も、圧倒的に情報量が少ないんです。コンサート全体としてそのどちらでもないものにしようとする時に、人によっては僕の曲だけを弾いた方が喜ぶと思うのですが、彼らの曲も弾いた方が新しいバランスになると思いました。
――最後に、和泉さんと海老原さんからもコンサート込めた思いを聞かせてください。
和泉:コラボレーションって、すごく難しいと思うんです。ただの足し算で終わっているもの、つまり「僕はこれできます」「私はあれできます」という感じで、銘々が出してきたものをただ並べているようなものがたくさんある。そんな中で、意見のキャッチボールをしながら1つのものを本当の意味で一緒に作り上げていくっていうことを、今やっていて。