音楽家・渋谷慶一郎と香水ブランド「ラニュイ パルファン」、アーティスト・和泉侃がつくる“音楽×香り”の一夜 ピアノソロコンサート「Living Room」が提示する可能性
――和泉さんが「for maria」に対して表現したいものとは?
和泉:生命のサイクル、でしょうか。芽吹いて伸びていくけれど、最終的には枯れ果てていく――。そんな生命の在りようを、ボタニカルでフレッシュなトップノートからだんだん緑を深めていきながらも、焦げたような匂いのラストノートへ変化していくような香りで表現できればと、新たなサンプルを制作しました。その背景には、命は尊く愛しいものであるという主観的な感情と、生まれたものが別け隔てなく死んでいくという自然の摂理という二極が相殺しあい、「凪」のような静寂をつくりだしているようなイメージもあります。
――お話を聞き、今回のプロジェクトがアーティスト同士のコラボレーションであることがよくわかりました。
渋谷:そうですね。和泉さんがアーティストだから今回のプロジェクトを一緒にやれています。もっと業務的な調香師の方だったら難しかったと思います。当たり前ですけど、僕は香水のビジネスをやりたいわけじゃなくて、一緒に新しいものや体験を作りたいだけなんです。
あと、和泉さんと話していて面白かったのは、昔、新品のマックブックを箱から開いた時の匂いを再現してみたことがあるということですね。
和泉:マックブックを箱から出して最初に開いた時って、独特の匂いがします。素材であるアルミ自体とアルマイト加工された表面の匂い、そして紙とインクの匂いが入り混じった近未来的な匂いで。もう10年前ぐらいの処方ですが、渋谷さんに合いそうだなと思い、久しぶりに持ち出してきて見返してみたんです。
渋谷:最終的にグリーンでオーガニックな方向性にたどり着くにしても、最初の段階でそういう人工的で未来的な香りが存在していたのは、「for maria」という作品の背景や僕のキャリアにもぴったり合っていて、とても興味深く感じました。
――渋谷さんと和泉さんという2人アーティストの間に立ちプロジェクトを実現させる上で、海老原さんが心掛けられていたことがあれば教えてください。