日本に1つしかない「赤ちゃんポスト」 行政の支援で増やす必要はあるのか?
この批判に対し蓮田院長は「出自を知る権利はもちろん大切。でも、赤ちゃんが無事であることを最優先したい」と話す。 「この4年間にゆりかごに子を預けた母親27人のほとんどに話を聞くことができました。その内容について、発達障害が専門の精神科医に意見を求めたところ、9割以上に親からの被虐待体験、ボーダーラインの発達障害か知的障害、家族(特に母娘)関係に問題、のいずれかが該当することがわかりました」 予期せぬ妊娠をしたけれど、周囲に頼れる人がいない。病院や行政にも連絡しづらい中で、中絶可能な時期が過ぎ、自宅などで孤立出産。自分では育てられず、匿名でゆりかごに預けるケースが多いという。 蓮田院長は、年間100人の女性が予期せぬ妊娠で孤立していると推測する。ゆりかごへの預け入れ件数や、乳児の殺害遺棄事件が年間20件起きていることなどを元にしたという。 「この100人には特別な配慮が必要です。孤立し、追い込まれているため、匿名での預け入れを保障しないと、赤ちゃんに手をかけてしまう可能性がある。赤ちゃんの命を最優先に考えています」
ゆりかごが広がらない原因
賛否両論あるゆりかご。運用を検証する熊本市専門部会の安部計彦部会長(西南学院大学人間科学部教授)は、「虐待死を減らす取り組みの一つとして機能している。数はもっと必要」と評価している。しかし、いまだ日本には慈恵病院1カ所だけだ。今年5月に北海道の任意団体が運用を始めたが、体制に懸念があり、行政から受け入れを控えるように忠告されている。 海外で浸透するゆりかごが、なぜ日本では広がらないのか? 「設置するハードルが他の国よりも高いのではないか」と指摘するのは、姜恩和目白大学人間学部准教授(子ども家庭福祉)だ。 「行政に認められないと始めることができないし、行政が認めないものを社会は認めないという雰囲気を感じます。加えて日本は、『子は母親が責任もって育てるもの』という風潮が強い。戦後に戦争孤児救済のための施設がつくられたことをはじめ、社会的養護の環境整備は進んだわけですが、それでも基本的には実親が育てるのが望ましいという考えが強い社会です。ゆりかごは育児放棄を助長するという見方が強いことも、広がらない一因になっているのではないでしょうか」