「きちんと教えてこなかった大人の責任」ーー性を教え続けた公立中教諭の抱く危機感【#性教育の現場から】
今から18年前、都内の養護学校(現・特別支援学校)で行われていた性教育に対して、苛烈なバッシングが起きた。校長が降格になり、多くの教員が厳重注意の処分を受けた。学校現場は萎縮したが、それでも、生徒のために必要だという信念で、性を教え続けた教員がいる。その一人、樋上典子さんに話を聞いた。樋上さんが中学生への性教育をやめなかった理由は。教え子が受け取った思いとは。(文:岡本耀/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
先生の「友だち」と紹介された講師、実は……
この3月まで中学校の保健体育科教員だった樋上典子さん(63)は、30年以上にわたり、主に都内の公立中学校で性教育に携わってきた。多くの学校で性教育がなおざりにされるなか、樋上さんが続けてこられたのには、子どもたちへの強い思いと周囲の協力があった。 樋上さんが行っているのは、「包括的セクシュアリティ教育」(以下、セクシュアリティ教育)と呼ばれる性教育。科学的にからだの仕組みを教え、ジェンダーや多様な性、恋愛などについても生徒たちと一緒に考えていく。性を幅広くポジティブに捉え、人権を基盤にしている教育だ。 特別授業などの時間を使って、1年生の「生命の誕生」「女らしさ・男らしさを考える」から、2年生の「多様な性」、3年生の「自分の性行動を考える~避妊と中絶~」「恋愛とデートDV」まで、段階を踏んで教える。 例えば「多様な性」の授業では外部講師を招く。講師は樋上さんの「友だち」として、これ以前にも何度か授業に参加している。生徒もすでに顔を知っている「身近な」存在だ。 講師がまず樋上さんに、「先生はなぜこの授業をしたいと思ったんですか?」と聞く。樋上さんは、こう答える。 「性に関する授業を始めたころ、クラスで男女の恋愛の話をしました。でも卒業生に、『自分は同性愛だから、先生が言ったことに傷ついた』と言われたことがある。だからみんなにちゃんと伝えたいと思ったんだよ」