日本に1つしかない「赤ちゃんポスト」 行政の支援で増やす必要はあるのか?
ゆりかごに賛同する病院は全国的に少ない。日本一の分娩数で知られる福田病院(熊本市)の福田稠理事長は、「その理由として、ゆりかごの背景に危険な孤立出産があるからではないでしょうか」と話す。 「女性が予期せぬ妊娠をして中絶可能な期間も過ぎた場合、病院に身元を明かして安全に出産してもらうことが大切です。しかし、匿名で赤ちゃんを預けられるゆりかごがあるため、病院には行かず、自宅での出産を選ぶ人がいるように思います。妊婦健診を未受診で、孤立出産。母子ともに大変危険です。ゆりかごはそうした危険な行為を助長している可能性があります」 福田病院は、予期せぬ妊娠で悩む女性らの電話相談をおこなっている。最初は匿名でも相談を受け付けるが、身元を明らかにすると医療機関のサポートをより受けられたり、出産後の養子縁組もスムーズにいったりすることなどを説明する。すると、両者の距離が縮まり、女性が名前を明らかにするケースが多いという。出産後、病院は女性を行政などの社会的支援につなぐ。 福田病院は予期せぬ妊娠をした人と繋がり、病院で安全に出産してもらうことを勧めるというスタンス。一方、病院に連絡しない、連絡できないという人のため、緊急避難的にゆりかごが必要というのが慈恵病院だ。ともに命を重視する中で、小さな考えの違いがある。
設置への大きなハードル
ゆりかごの趣旨に賛同しながらも、開設まで至らなかったところもある。医師で京都大学名誉教授の人見滋樹氏が設立した認定NPO法人「こうのとりのゆりかごin関西」(兵庫)だ。人見氏は2017年2月、「ゆりかごで救われる命もある。関西から熊本まで行って預け入れる人がいるため、関西に新たな受け皿をつくりたい」と表明。ゆりかごを神戸市の助産院に開設する計画を発表した。 もともとの希望は、慈恵病院のように病院内でのゆりかご設置だった。人見氏は関西地方の病院と協議したがまとまらず、助産院でとなった。しかし、会見の約1カ月後、開設を見送ることとなった。医師が常駐していないことに市が難色を示したからだという。 ゆりかごに預けられた子を病院に搬送するかどうかの判断は医療行為にあたり、医師法上、助産師にはできない。そのため、助産院では、子どもが預けられた場合は電話で嘱託医に判断を仰ぐ予定だったが、そうした方法に市が不安をもったという。 人見氏は当時を振り返り、唇をかむ。 「私たちはこの体制でできると思いましたが、市は安全面から『医師の24時間常駐』が希望でした。そうなると私たちのような規模では難しく、病院でないと設置できません」 ゆりかごがある慈恵病院は病床数98で、小児科や産婦人科を備え、医師と看護師が常駐している。そのため、いつ赤ちゃんが預けられても対応できる。ただし、年間の運営費用は約2千万円だ。いくらかは寄付でカバーできているが、大半は持ち出しだという。 こうした人員やコスト面の負担が、病院のゆりかご設置を遠ざけている面もある。