北極は日本に意外と近くて、今アツい サイエンスアゴラ2024「今、なぜ北極!?~気候変動と私とのつながり~」
深井さんの講演テーマは「北極海の泥に眠る小さなタネ」。氷に覆われた北極海には、どんなタネが埋まっているのだろうか。そして、それは芽吹くのだろうか。
ホッキョクグマ、セイウチ、シャチ、コククジラ、アゴヒゲアザラシ、エトピリカ―北極海には想像以上に多くの生物が暮らしている。その生態系を支えているのが、植物プランクトンだ。髪の毛の太さよりも小さい生物ながら、海中での光合成の90%以上を担っているという。
もちろん陸上の植物と同じく、光合成には光と栄養が必要だ。冬、太陽がほとんど昇らない極夜では光合成ができないため、暗い海の中は栄養の貯蔵庫と化す。そして春、海氷が解けて海中に太陽光が差し込むようになると、植物プランクトンは満を持して大増殖する。その一部が海底へと沈み、泥の中で眠りにつく。それが深井さんのいう「タネ」であり、正体は休眠期細胞である。海底に光は届かないが、水深50m程度の浅い海では泥が巻き上げられたり、海氷に取り込まれたりすることによってタネに光が当たり、発芽する可能性もあるという。
深井さんによると、海氷の変化によって、植物プランクトンの大増殖のタイミングや繁茂する種類も変わるそうだ。そのとき、北極海の生き物たちの暮らしはどう変わっていくのだろう。泥に眠る小さなタネと海洋生態系への興味がかき立てられる講演だった。
飛行機のコックピットで大気を採取して地球を診察する
地球温暖化の原因といわれている温室効果ガスの測定に、私たちも普段利用する旅客機が使われていることはご存知だろうか。「飛行機から診る北極上空の温室効果ガス」と題して講演したのは、気象庁気象研究所の藤田遼さん。10日前に大気採取の旅から帰ってきたばかりだという。
日本での飛行機を利用した大気観測の歴史は長い。1979年、東北大学と日本航空(JAL、当時は東亜国内航空)の協業が始まりだ(現在も継続中)。国際線の定期旅客便による上空での緯度別大気観測は、世界初の試みだった。1993年には、その後藤田さんも在籍することになる気象庁気象研究所とJALが中心となった観測が始まり、2005年には国立環境研究所などが加わった5団体による「CONTRAILプロジェクト」へと発展している。