北極は日本に意外と近くて、今アツい サイエンスアゴラ2024「今、なぜ北極!?~気候変動と私とのつながり~」
一方、1940~70年の寒冷化は、内部変動に加えて、人間活動によって排出される二酸化硫黄が大気中で酸化した、硫酸塩エアロゾルの増加に起因すると考えられるそうだ。なぜなら、硫酸塩エアロゾルは太陽光を散乱して地球を冷却するからだという。 20世紀の北極では、現在とは少し異なる要因で温暖化と寒冷化が起きていた。この謎の解明から、さらに気候変動と気候予測の研究が深まり、地球温暖化への新たな手立てが見えてくるのかもしれない。
北極に生きるツボカビが氷河の融解を止めるのか
赤い雪を見たことがあるだろうか。「赤雪(あかゆき)」と呼ばれ、雪氷藻類という微生物の繁殖によって起こる現象である。そして、氷河を解かす原因になるともいわれている。赤雪の実物を見せながら説明してくれたのは、千葉大学の小林綺乃さん。「氷河上で生きる微生物」を主題に講演した。
小林さんの主な研究対象は「ツボカビ」。雪氷藻類のほか、カエルやコケ、プランクトンなどに寄生する菌類で、北極で加速している氷河の融解を止められるかもしれないと、最近注目を集めているという。では、なぜ「ツボカビが氷河を救う」のだろうか。その理由は、雪氷藻類などの宿主に寄生し死に至らしめることで、繁殖を抑制できると考えられるからだ。
小林さんが米アラスカ州グルカナ氷河で実施した調査では、ツボカビの生息場所と感染率が明らかになった。氷河を解かす原因といわれている「クリオコナイト」。これはシアノバクテリア(光合成を行う細菌)や鉱物の粒子からなる塊で、黒色ゆえに太陽光を吸収して氷河を解かしてしまう。そこにできる水たまりが「クリオコナイトホール」であり、そこにツボカビはいたのだ。クリオコナイトへの感染率は20%だったといい、氷河の融解を止めることが期待されている。
ツボカビは珍しい微生物ではない。ところが、氷河に生きるツボカビはまだ解明が進んでいないという。今後の研究から目が離せない。
北極海の泥に眠る小さなタネが生き物の暮らしを支えている
サイエンストーク目当ての来場者が集まり始めると、北極ブースはよりにぎやかになる。2日目も大盛況の中、登壇したのは、海洋研究開発機構の深井悠里さん。1カ月ほど前まで、海洋地球研究船「みらい」に乗って北極海観測航海に参加していたといい、写真を示しながら船内での生活や食事について話してくれた。