「ロエベ」の巧みなスタイル、服とバッグのマリアージュ 職人技に浸る
■服に隠れないビッグバッグ 量感でメリハリ
◇その1:「携えるアート作品」、全体をクールに引き締め フォーマルなたたずまいのアウターは襟がサテン系で、礼服のモーニング風です。凜(りん)としたシルエットに、ストライプ柄のグレーパンツを合わせて、メンズ色を濃くしました。 パンツ裾をたるませた、リラックス気分の足元との対比が効いています。ビッグトートバッグの涼やかなブルーが全体をクールに見せています。あえてビッグバッグを携えて、芯の強さを示すようなアレンジも今のトレンドです。 折り紙に着想を得たというバッグ、「パズルトート(PUZZLE TOTE)」はフラットな正方形に折りたためる機能的なデザインです。収納力が頼もしく、かさばりを抑えやすいから、旅行や出張にぴったり。XLサイズが用意されているのもこのモデルのいいところです。 体のサイドに迎えると、ルックがコンパクトに映ります。複雑にレザーピースを組み合わせた表情は「携えるアート作品」のようです。 ◇その2:縦長バッグは「落ち感」も演出 服と異素材の妙 ミリタリー風のしなやかなレザーコートは1枚で主役級の存在感だから、ドレスのようにまとって。柔らかなレザーがタフで硬質なコートのイメージを書き換えます。ダブルブレストのゴールドボタンは装飾アクセサリーのような華やぎを演出。 足元はキャビアビーズがびっしりと施されたショートブーツでゴージャス感と愛らしさを印象付けています。 アウターが主役になる秋冬シーズンに装いのムードメーカーを担うのは、服に隠れないバッグです。デニム生地の「スクイーズ」バッグは気取らない「抜け感」を添えました。 目立つ大ぶりタイプは縦に長い「落ち感」を際立たせます。レザーとデニムという好対照の風合いがルックにメリハリをもたらしました。洗いをかけたウォッシュドデニムは使い勝手に優れ、程よいタフ感もまとわせてくれます。
■ロエベ、178年の歴史 クラフト愛と革新性を両立
1846年にマドリッドで誕生。その後、皮革職人のエンリケ・ロエベ・ロスバーグを迎えて発展した「ロエベ」は178年もの歴史を重ねてきた老舗メゾンです。スペイン王室や貴族に愛された、手仕事のレザー加工で知られます。 職人技の工芸を指す「クラフト」はブランドを象徴する言葉です。クラフト愛の強さで有名なジョナサン・アンダーソン氏を2013年からクリエイティブ ディレクターに迎えています。 彼の発案により、ロエベ財団はクラフト表現を対象にした国際的な表彰制度「ロエベ財団 クラフトプライズ」を運営。アートや工芸への取り組みを重ねていることでも知られます。 きちんと管理されたレザーは、サステナビリティー(持続可能性)の面から再評価が進んでいます。「ロエベ」は以前から環境負荷の低い素材を採用しているのに加え、余剰レザーを再利用した「フラメンコ サープラス」も2024年6月に発売。ファッション界をリードする形でSDGs(持続可能な開発目標)への貢献を示しています。 2024-25年秋冬ウィメンズコレクションでは「富と階級の比喩」をテーマに選定。階級や貴族性の象徴を無効化し、アンダーソン氏らしいウイットを利かせて、表現しました。米国の画家、アルバート・ヨーク氏の田園風景画や静物画もインスピレーションの1つとして、のどかな雰囲気を加えています。 シンプルさとひねり、ボリュームの強弱、メンズとウィメンズなど、異なる要素を響き合わせるスタイリングは秋から一段と勢いを増していく気配です。 ウエアとバッグとの組み合わせは、自分好みのバランスに整えるカギになりそうだから、今回の「ロエベ」をお手本に、新しい着こなしを試してみてはいかがでしょう。 文:宮田理江(ファッションジャーナリスト)
宮田理江
トレンド情報や着こなし解説、コレクションリポート、スタイリング指南をメディアや個人サイトで幅広く発信。異なるテイストのミックスコーディネートが得意。自らのテレビ通販ブランドを持つ。ディレクション業務、イベント登壇もこなす。毎日ファッション大賞選考委員。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。