戦争体験集「孫たちへの証言」最新号で終刊 30年以上にわたり刊行
正確な情報掲載へ編集者の責任重大
「高齢の体験者から家族が体験談を聞き取って手記にまとめる際、注意すべきは『話したつもり、聞いたつもり』。話し手も聞き手も聞き取ったことに満足して安心し、事実の確認がおろそかになりかねない。編集者が協力して事実確認を行った末、どうしても事実とご本人の記憶がかみあわないことがあります。興味深い内容でも最終的には掲載を見送るという決断を含めて、編集者の責任はとても重い」 近年原稿と向き合っていると、戦争に関する基礎的知識への理解が揺るぎ始めていると感じることがあるという。 「召集令状の『召集』が、誤った『招集』となっている原稿が多い。文書作成ソフトで『しょうしゅう』と打ち込むと、第1候補に『招集』と出てくるので、間違っていると気付かないまま使い続けているのかもしれませんね」 校正にも気を抜けない。文面には表れない編集者の責任の重さを知り抜いているからこそ、証言集に終止符を打たざるを得なかった。
「記憶は1代、記録は末代」
今後の目標は2つ。1つは、在庫切れになっている証言集の復刻出版。歴代執筆者の中には、平和教育の一環として、証言集を全巻ぞろいで地元の学校に寄贈したいと考えている人がいるからだ。 もう1つの目標は、未掲載原稿のデータベース化。約50箱の段ボール箱に眠っている約1万8000編の未掲載原稿に、それぞれ見出しを付け、いつどこでどんなことが起きたかが分かるようなワードを選び出してデータ化し、必要に応じて活用できる体制作りを目指す。 「記憶は1代、記録は末代。戦争体験を記録に残すことで、いつでも振り返って役立てることができる。私たちは今、コロナ禍で先のみえない不安な日々を過ごしています。若い世代にとって、ごく身近なご先祖たちが苦しみながらも懸命に生きた戦争体験の記録から、学べることがたくさんあるのではないでしょうか」 戦後75年とコロナ禍。危機の時代をともに生き抜く知恵を模索する夏だ。 (文責・フリーライター・岡村雅之)