戦争体験を受け継ぐ証言集「孫たちへの証言」今年も刊行
高齢者の戦争体験を若手世代が聞き取りしてまとめる
大阪の出版社新風書房(大阪市天王寺区)が、市民の戦争体験を受け継ぐ証言集「孫たちへの証言」を今年も刊行した。第29集で、高齢者の戦争体験を若手世代が聞き取りをしてまとめる伝承編を初めて設定。若手編集者を編集部に加えて、証言集刊行を継続していく体制も整えた。 大阪唯一の「掩体壕」など 戦争遺跡を辿る案内人の思い
小学6年生が聞き取り執筆した「ひいおばあちゃんの戦争」
第29集の応募原稿は462編で、優秀作品77編を掲載した。初めて体験編と伝承編の2部構成とし、高齢者の戦争体験を若手世代が聞き取りをして、証言にまとめる伝承力の育成強化に乗り出した。伝承編の掲載は12編だった。 「ひいおばあちゃんの戦争」と題して、曾祖母の戦争体験をまとめたのは、京都市の小学6年生の少女。新潟県に住む90代の曾祖母を訪ねて話を聞いた。曾祖母は1942年春、お見合いや式を挙げることもなく結婚。新郎新婦で農作業に打ち込んだが、翌年6月夫が中国へ出征。7月には娘が生まれたものの、夫は娘とふれあうこともなく、戦死した。 その娘が少女の祖母であることや、曾祖母は戦後も再婚することなくたくましく生き抜いたことなどが、よく整理されて書き込まれている。少女は最後にこう記す。 『戦争の時代は何をするのもすごく大変だということが本当によく分かりました。私だったらと考えると、ひいおばあちゃんみたいに強く生きていけないと思いました。戦争のせいで覚一さん(注・曾祖父)は娘の写真を見ただけで、抱っこすることはできませんでした。そんなひどい戦争は絶対になくさなければいけないと思います』
伝承者を育成し戦争体験を受け継ぐ時代へ
戦争体験者が減少し、高齢化が進む中で、貴重な戦争体験の記憶を受け継ぐ伝承者に、期待がかかる。半面、若手世代が聞き取りに臨んでもやりとりが深まらないと、思いが空回りしかねない。第1集から編集に携わってきた福山琢磨新風書房代表は次のように助言する。 「高齢者に対し、年齢の離れた孫やひ孫世代が聞き取りをする場合、方言や時代背景が理解しにくいことがある。肉親者などが立ち会い、両者の会話を仲介することで、話が弾んで聞き取りが円滑に進む。聞き取りが縁となり、ファミリーの交流が深まることもあります」 福山さんは自身で全応募作品に目を通し、掲載作品に関しては記述内容の確認や補足などを通じて応募者と綿密なやりとりを続けてきた。骨の折れる作業だが、伝承編の新設を契機に、若手の上野真悟さんを新たな編集部員に加えた。 初年度の上野さんは伝承編作品の見出しを付ける作業などを担当したが、徐々に証言集の編集全般を担っていく予定だ。上野さんは「これまで福山代表が作品を自宅へ持ち帰ってまで読み込む姿勢に、編集者の責任の重さを感じていた。伝承者が育ち、戦争体験がしっかり受け継がれるためのお手伝いをできれば」と静かに意気込む。