時代を先取っていた大阪「ともに学び、ともに育つ」教育 文科省通知は「不当な差別」弁護士会が撤回勧告
特別支援学級に在籍する子どもたちが通常学級で学ぶ時間を制限する文部科学省の通知(「4.27通知」)は、「子どもたちのインクルーシブ教育を受ける権利を侵害しており、不当な差別に当たる恐れがある」として、大阪弁護士会(三木秀夫会長)は26日、盛山正仁文部科学大臣に通知を撤回するよう勧告したと明らかにした。勧告は22日付。大阪府枚方市や東大阪市に住むダウン症、知的障害、自閉スペクトラム症、肢体不自由といった障害を持ち地域の市立小学校に通う児童6人とその保護者からの人権救済の申し立てを受け、同弁護士会の人権擁護委員会が調査していた。 申し立てをした保護者らは26日午後、大阪府庁(大阪市中央区)で記者会見を行い、「『4.27通知』は『ともに学び、ともに育つ』から逆行させると感じていた。人権侵害だと認められてよかった」などと語った。(文・写真:ジャーナリスト・飯田和樹)
大阪独自の「ともに学び、ともに育つ」教育
インクルーシブ教育を受ける権利を保障することを締約国に義務付ける障害者権利条約が国連で採択されたのは2006年だが、大阪ではそれよりも前から障害の有無などによって子どもたちを分離しない「ともに学び、ともに育つ」教育を推進してきた。 この教育を可能にしてきたのが、「原学級保障」などと呼ばれる大阪府独自のやり方だ。大阪の教育関係者は、支援学級に対して通常の学級を「原学級」と呼び、公立小中学校の多くで、支援学級に在籍する子どもたちも、障害のない子どもたちとともに多くの時間をこの原学級で学ぶ。出席簿にも50音順で名前がある。 ただ同じ教室にいるというだけではない。障害のある子どもたちの通常の学級での学びを保障するため、必要に応じて特別支援学級の担任などが、在籍児童の状況や授業内容に合わせ、教室に入ってサポートする。これは「入り込み支援」や「付き添い指導」などと呼ばれており、大阪府域では珍しくないやり方だ。
国連勧告、「聞く耳を持たない」文科省
しかし、文部科学省は2022年4月27日、特別支援学級に在籍する児童や生徒は原則として週の半分以上を支援学級で授業を受けることを求める「4.27通知」を発出。支援学級にいる子どもが通常学級で学べているのであれば、籍も通常学級におけばインクルーシブになるというのが文科省の主張だが、これを文字通り解釈すれば、これまでの大阪府独自のやり方は成り立たなくなる。「入り込み支援」のようなサポートがあるからこそ通常学級で学べていた障害のある子どもたちは、大半の時間を支援学級で通常学級の子どもたちとは分けられて過ごすことになる可能性が高いからだ。あるいは、支援がない状態で通常学級にいることになるかもしれない。 実際に、枚方市の教育委員会は「4.27通知」を受けてまもなく、この通知に沿った特別支援教育の見直しを行う旨を表明。支援学級に在籍しながら多くの時間を通常学級の子どもたちとともに学ぶ障害のある子どもたちに対し、一度は「学びの場」の選択を迫る方針を打ち出している。申し立て人たちによると、「4.27通知」が出た後、それまで行われていた「入り込み支援」ができなくなったところもあるという。 「4.27通知」については、国連障害者権利委員会が2022年9月、懸念を表明し、「撤回」を強く要請した。しかし、その数日後、永岡桂子文部科学大臣(当時)が「通知はインクルーシブ教育を推進するもので、撤回を求められたのは遺憾」と述べ、それ以降も文科省は「聞く耳を持たない」姿勢を続けている。