「温泉付きSA、暮らしていける説」を検証すると、そこは「極楽浄土」だった【話題の現場 突撃ルポ】
【話題の現場 突撃ルポ】 リーズナブルに非日常を堪能し、宿泊まで可能な「温泉付きサービスエリア(SA)」が、密かに注目を集めている。24時間営業のフードコートやコンビニ、清潔なトイレに温泉。さらに、車内というプライバシー空間で体を休めることもできる。生活に必要な要素がすべて揃い、“暮らせる”と言っても過言ではない。そんなSAライフを体験すべく、本紙記者は12月中旬のある平日、ひとり車を走らせた。 【写真】“介錯おじさん”宮澤博行元議員も…薄毛治療に通う凄腕鍼灸院に行ってみた! 目的地のSA駐車場は一方通行で、「駐車できなければ次のSAへ向かうこと」と定められている。止め場選びは暮らしの質を左右する重大事だ。施設に近ければ近いほど利便性は高い。到着時刻は午前1時、混雑を避けるための策だった。 その甲斐あって狙い通りの「ベストポジション」を確保。ここが今夜から自分の巣になる。エンジンを止め、持参したスキーウエアに着替えると、足元の広い助手席へ移動した。事前に買っておいたビールを楽しみ、座席を倒して横になると、運転の疲れも手伝ってあっという間に眠りに落ちた。 ──が、2時間後、目が覚めた。寒い。いや、極寒だ。スマホで確認した気温はなんと0度。明け方にはマイナス2度まで下がるという。足元は氷のように冷え切り、くるぶしから下は感覚がない。慌ててエンジンをかけるが、暖房が効き始めるまでの数分間はまるで永遠のようだった。「後悔」の文字が脳裏をよぎる。 車内が少し暖まっても、凍えた足の感覚は戻らない。しかもガソリンは有限だ。1時間のアイドリングで約1リットルを消費する。長時間使用は避けたい。そんな中、さらに追い打ちをかけるように尿意が襲ってきた。 トイレは外にある。寒さに耐えていくのか、それとも耐え切れずに失敗するのか。逡巡しているさなか、天啓のようなひらめきが降りてきた。 「温泉があるじゃないか!」
こんなところで“整える”とは
車を飛び出しトイレへ急行、小便器に穴が開くのではという勢いで出し切って、いざ温泉へ。 脱衣所で服を脱ぎ捨て、クルミのように縮み上がった自分の分身をさすり、「もう大丈夫だよ」といたわってやる。いざ浴場に入って驚いた。サウナと水風呂まで備わっているではないか。こんな場所で“ととのえる”とは。湯船に漬かると、震えるような寒さの苦しみさえいとおしくなる。こここそが極楽浄土だ。 心身ともに復活した後、コンビニでカイロを購入し、フードコートで熱々のラーメンをすする。巣に戻り、カイロを両足の裏、腰、背中、首に貼ると、温泉効果も相まってぐっすり眠ることができた。 翌日、昼間は車内からリモートワークで仕事をこなし、お腹が減ればフードコートへ向かう。各店舗で特産グルメが提供されているのもうれしい。バラエティー豊かで飽きることはない。 夜はスマホを眺めながら時間を過ごし、頃合いを見てまた温泉へ。体を温めた後、全身にカイロを貼り付けて目をつむる。そのまま朝を迎え、再び仕事に取りかかる。 俗世を忘れ、せわしなく行き交う人々を見送りながら、目的地も急ぐ必要もない自分に気づく。そこには不思議な優越感があった。いつしか通りすぎる人々の安全を祈る余裕さえ生まれていた。 結局3泊を過ごしたが、時間が許すならもっといたかった。慣れればこの上ない快適空間だった。 「ずいぶん長い時間、高速にいたけど、何かありました?」 料金所で尋ねられたため、 「SAで休んでいました」 正直に答えると、とがめられることはなかった。胸をなでおろして下界へハンドルを切った。