池上彰×佐藤優「アリとキリギリス」に必要なのは生活保護だった!? 池上「キリギリスがいて社会は成り立つ。よく働くアリばかりでは組織の維持が難しい」
多くの人が子どもの頃に読んだり、読み聞かされたりした「童話(寓話)」。実はその中に「人間とはどのように生きるべきか」といった指針や智恵がたくさん詰まっている、と話すのはジャーナリストの池上彰さんです。今回その池上さんと、元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんがあらためて童話を読み返し、人生に役立つヒントを探します。たとえば佐藤さんは「アリとキリギリス」の話で、アリにキリギリスが餌を分けてくれるようにお願いに行く、という発想が新自由主義的と言っていて――。 【書影】大人こそ寓話を読み直すべきだ!池上彰×佐藤優『グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』 * * * * * * * ◆「アリとキリギリス」 ◎あらすじ ある夏の日、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って楽しく過ごしていた。 一方、アリたちは、冬に備えて食料をせっせと家に運んでいた。「食べ物はたくさんあるじゃないか」と言うキリギリスに、アリは「冬になると、なくなってしまう」と答えるが、キリギリスは意に介さずに、またバイオリンを弾き始めた。 やがて冬になり、キリギリスは食料を探すものの、周りには何もなかった。困り果てたキリギリスは、最後に食料を分けてもらおうと、アリの家を訪ねる。 しかし、冬になるまでキリギリスが何もしなかったことを知るアリたちが、彼の願いを受け入れることはなく、飢えて死ぬしかなかった。[「アリとキリギリス」イソップ]
◆アリに頼んだのが間違いだった 佐藤 「アリとキリギリス」の話では、そもそも餌を蓄えているアリにお願いに行くという発想自体が、新自由主義的ですよね。 池上 本来はセーフティネットがあって、そこに頼みに行くのが筋でしょう。キリギリスを拒絶したアリの言い分も、わからないではありません。彼らにも生活があるし、冬を越さなければならないのだから。 佐藤 社会全体の安全網をアリに担わせるというのは、無理があります。だから、アリもキリギリスもちゃんと税金を払って、昆虫界の生活保護のシステムを構築しておくべきでした。 池上 その場合、住民たちを見守る民生委員は誰がいいのでしょうか。 佐藤 クモみたいな肉食系はダメですね。相談に行ったら食べられてしまう(笑)。専守防衛のダンゴムシなんかがいいかもしれません。 池上 冗談めかした話をしていますが、現実社会でも民生委員のなり手不足は深刻です。生活保護についても、仕組みさえよくわからないまま餓死したり、犯罪に走ったりといった事例が、しばしば報告されています。
【関連記事】
- 池上彰×佐藤優 木のてっぺんの甘いぶどうは「東京大学」?諦めたキツネを「みじめ」と断ずるのは大いなる勘違い…「すっぱいぶどう」が今に伝える教訓
- 池上彰×佐藤優「手袋を買いに」で子狐に手袋を売った店主は本当に<優しい人>だったのか…佐藤「最後の母狐の独白が実に深い」
- 池上彰 かつて時価総額ランキング20位内に14社あった日本企業が今ゼロに…。環境が激変する中でも「自分の人生」をよりよくしていくためにつけておきたい<癖>とは
- 池上彰 なぜバブルは日本で限界を超えて膨らんだのに、ドイツは防ぐことができたのか?アメリカへの忖度に消費税引き上げ。日本経済低迷の背景を解説!
- 池上彰 なぜバブルは膨らみ「ドル安」を実現できたのか?高級ブランドや高級車が飛ぶように売れ、日本が史上空前の豊かな国になった背景を解説!