池上彰×佐藤優「アリとキリギリス」に必要なのは生活保護だった!? 池上「キリギリスがいて社会は成り立つ。よく働くアリばかりでは組織の維持が難しい」
◆腰の重い社員 佐藤 はっきりしているのは、「アリとキリギリス」のフレームでいろいろ解釈しているだけでは、不十分だということですね。それを超えた社会システムを再構築して、ちゃんと機能させていく必要があるわけです。 池上 そのためには、「世の中には、キリギリスもいるんだ」という社会的な合意が必要になるでしょう。 佐藤 アリもいればキリギリスもいて、それで社会は成り立っている。社会にそういう感覚を呼び覚ますのは、非常に重要なことです。 池上 そもそも、アリの世界だって一様ではないと言われていますよね。集団を「よく働く・普通・働かない」に分けると、よく働くアリが全体の2割、普通のアリが6割、働かないアリが2割になるのだ、という「働きアリの法則」という俗説があります。 働かないアリは「腰の重い社員」のようなもので、普段はよく働くアリに仕事が集中します。しかし、よく働くアリばかりだと、やがて組織の維持が難しくなってしまう。なぜなら、みんなが疲弊して、仕事の効率が一気に低下してしまうからです。 佐藤 そういう環境が不正の温床になったりもします。いざとなったら代わりができる「腰の重い社員」も、組織には必要なのです。
◆自助努力の選択肢 池上 ところで、「アリとキリギリス」には、実は冬になればこうなることをわかっていたキリギリスが、アリたちの前で「もう僕は十分歌ったから、死んだら餌にしていいよ」と語るバージョンもあります。 佐藤 遊んでいるようで、人生を達観していた。 池上 アリと「死んだら食べてもいいから、それまで養ってほしい」という契約を結べば、むげに断られることはなかったかもしれません。最近コマーシャルでやっている「リースバック」みたいなものです。ローンの残っている自宅を会社に売って、そこと賃貸契約を結んで住み続ける。 佐藤 「生命保険の買い取り」もそうですね。急にまとまったお金が必要になった場合、普通に保険を解約して返戻金をもらうと、損が出ます。そこで、その保険を丸々買い取ります、というビジネスがあるのです。解約返戻金よりも高い値段で買い取ってくれるうえに、以後の保険料も支払う必要はなし。ただし、死亡保険金は買い取った人のものになります。 池上 これもまたドライなお話ですが、キリギリスには、そんな自助努力の選択肢もあるということになるのでしょう。もちろん、社会的なセーフティネットがしっかり確立されたうえでのお話ですが。 ※本稿は、『グリム、イソップ、日本昔話-人生に効く寓話』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
池上彰,佐藤優
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