34年前の「俺たちやったぜ(やっちゃったぜ)」なホンダのバイク
レーサーレプリカという名称とはうらはらに、これは普通の速度で走る限りは、自由自在にコーナーリング中のライン取りを変更できる大変安全性の高いバイクだ。 確かにMC21は傑作だった。貴重な試乗の機会を与えてくれたTさんに、感謝申し上げる次第だ。 ●レーサーレプリカ小史 このような車体の評価とは別に、乗っている間中、私は「ああ、また2スト250ccのレーサーレプリカに出会えたなあ」という感慨に浸っていた。 先ほど、「1990年ごろはレーサーレプリカがつくだ煮の小魚みたいにいっぱい走っていた」と書いたが、そのほぼすべてが、2ストを搭載していた。それどころか、50ccの原付もそのかなりの部分は2ストエンジンで走っていた。少し遡ると2ストの自動車も当たり前に存在した。 が、2024年末の現在、もう2ストのバイクを新車で買うことはほとんどできない。ごく少数の外車は存在する。また、公道走行不可の競技用車両では、今も2ストが使われている。一部では研究開発も続いている。 が、日本の4メーカーは公道を走る2ストのバイクの生産と販売をやめてしまった。強化された排ガス規制のためである。 シリンダー内で燃料と空気の混合気を爆発させて回転エネルギーを得る内燃機関は、「4ストローク(以下4スト)」と「2ストローク」とに大別される。 4ストは、シリンダー上部に弁を持ち、弁の開閉でシリンダー内部に混合気を吹き込んだり、燃焼後の排ガスを出し入れしたりする。 1回の爆発のために吸気・圧縮・燃焼・排気という4つの行程を経るので4ストという。爆発はクランクシャフト2回転で1回だ。 これに対して2ストは、吸気と排気を同時にやってしまう。シリンダー側面に吸気と排気の穴(ポート)を開けておき、同時にピストン下部をあらかじめ混合気に圧力をかける予圧室として使う。 爆発でピストンが下がると、ピストン側面で塞がれていた吸気と排気のポートが開く。するとあらかじめ圧力をかけておいた混合気がシリンダー内に吹き込む。と、同時にシリンダー内の排ガスは排気ポートから押し出される。膨張と吸気と排気・圧縮と爆発という2つの行程を経るので2サイクル。爆発はクランクシャフト1回転ごとに起きる。 (※参考→「バイクの2ストと4ストって何が違う?2つの違いとメリット・デメリットを紹介」) https://www.8190.jp/bikelifelab/notes/beginners/220718_01 2ストには、4ストのような弁や弁の駆動機構がなく構造が簡単で軽量かつ低コストに造れるという利点がある。また、4ストの場合は弁を駆動するためにエネルギーの損失が発生する。複雑な機構を持たない2ストは機械的な損失が少ない。しかも爆発回数は4ストの2倍なので、パワーを出しやすい。 ●ヤマハの思いが風向きを変える その一方で2ストは、吸気と排気を同時に行うために、どうしても未燃焼の混合気が排気ポートから流れ出してしまい、燃費が悪化する。また、シリンダー下側の空間を混合気の予圧に使うために、シリンダー内部を潤滑するためには燃料に潤滑油を混ぜなくてはいけない。潤滑油は燃料と一緒に燃えて排出されるので排ガスには、潤滑油が燃えた後の汚染物質が含まれることになる。2ストというと、白い煙を吐き出す様子を思い出す人もいるだろう。潤滑油が燃えて白煙となっているのだ。 日本では敗戦後、簡便な乗り物として自転車に装着するエンジンを造る会社が多数出現し、そこから本格的な二輪車産業が始まった。この時多くは、構造が簡単な2ストを選んだ。ヤマハとスズキは2ストを開発してバイクに搭載したし、カワサキは4ストの技術を持っていた目黒製作所を吸収合併する一方で、2ストエンジンで1960年代に北米市場へ進出していった。 その中でホンダは、一貫して4ストの開発に集中した。創業者の本田宗一郎が、吸気・圧縮・燃焼・排気という一つひとつの物理現象がきっちり分離している4ストのほうが最終的には効率が高くなる、と考えたからだ。 1970年代に入ると大気汚染防止のための排ガス規制が全世界で法制化されるようになり、「白い煙を噴く2ストは、近い将来に法律で規制され、使えなくなるだろう」という雰囲気になっていった。 しかしヤマハが「これまでに培った2ストの技術の集大成を世に出そう」という意図で、1980年に「RZ250」「RZ350」を発売すると、風向きが変わった。速くて格好良く、運動性能も良いRZ250/350は大ヒットしたのだ。2ストはおしまいと思われていたものが、「まだまだ商品価値はある」とひっくり返ったのである。