34年前の「俺たちやったぜ(やっちゃったぜ)」なホンダのバイク
写っていたのは、ホンダ「NSR250R」の1990年モデル、型式名は「MC21」。 ここで分かる人は、おおっとなるだろうし、分からない人はきょとんとするだろう。分からなかった人には後で説明するので、今はとりあえず「34年前のホンダの250ccのバイク」と思ってほしい。 私はすぐに「弟さんのを借りたな」と思った。Kさんの弟さんがNSR250Rのオーナーであることは知っていたからだ。そこで「いいですねー」と投稿に返事を付けたのだけれど、Kさんからは思わぬ返事が戻ってきた。「乗ってみます? 弟に紹介しますよ」。 そこからはトントン拍子だ。私はKさんから弟のTさんを紹介され、NSR250Rを借りることができたのである。 ●レーサーレプリカとは? さっそく箱根の道を走ってみる。といっても、私はライディングがうまいわけではないので、「流してみた」といったところだ。貴重な34年前のバイクを好意で貸していただいたのだ。万一にでも事故など起こして壊してしまうわけにはいかない。 NSR250Rとはどのようなバイクか。 まず、「レーサーレプリカ」という車種を説明しないといけない。読んで字のごとくレーサーのレプリカ。サーキットを走るレーシングマシンを模したバイクだ。車体を覆うフルカウル、低いハンドル。深く前傾した乗車姿勢。そしてハイパワーエンジンを搭載した軽量の車体が特徴である。 1990年当時、世界グランプリのレーサーは基本的に2ストロークエンジン(以下2スト)を使っていたので、これらレーサーレプリカも必然的に2ストエンジンを搭載していた。 1980年代初めから10年ほど、このレーサーレプリカが大流行した時期があった。若いライダーが我も我もとレーサーレプリカを買い求め、乗り回していたのである。 スズキはRG250ガンマ、ヤマハ発動機(以下ヤマハ)はTZR250を、カワサキはKR250とそれぞれ特色あるレーサーレプリカを販売していたが、ホンダのレーサーレプリカがこのNSR250Rだった。 当時はバイクがブームでどんどん売れた。レーサーレプリカの販売競争もまた熾烈(しれつ)であり、今では考えられないぐらいの速度で車体の開発が行われ、新型が発売された。NSR250Rは、1986年から99年まで販売され、その間に3回のフルモデルチェンジを実施している。 公道を走る車両は国土交通省(当時は運輸省)の型式認定を受けるが、その際の型式名で同一車種のモデルチェンジは区別される。NSR250Rの場合、型式名「MC16」「MC18」「MC21」「MC28」と、4種類が販売されたのである。 ●体を合わせてからまたがるべき乗り物 このうち、最も名高いのが2番目のMC18だ。それまでのレーサーレプリカとは別次元の速さを誇ったが、一方で操縦も難しく、同時に難しいが故に「じゃじゃ馬を乗りこなす」的なニュアンスで伝説的な存在となった。 それに対して「MC18の速さはそのままに、ずっと乗りやすく親しみやすい」と評価されたのが、今回借りることができたMC21である。 またがると、まずそのきつく前傾した乗車ポジションに驚く。しかも足を乗せるステップの位置が高く、股も膝もぎゅっと曲げた窮屈な乗車姿勢になる。ステップが高いのは、少しでもコーナーリングの時のバンク角(バイクを傾ける角度)を稼ぐためだ。レーシングマシンなら当たり前だが、「レプリカなのに、ここまでやるのか」という感じだ。 実際に乗って走ると、乗っている間中腹筋にきゅっと力を入れて斜めに前のめりになった上半身を支える必要がある。疲れたからと腹筋から力を抜くと、へっぴり腰姿勢になり、多分そのまま走り続けると腰を痛めるだろう。また、首は空を飛ぶウルトラマンのように持ち上げて前を向く必要がある。首回りの筋肉も鍛えておく必要がありそうだ。 これは「バイクに合わせて体を鍛えてから乗る」べきバイクだろう。